アマダイと聞いて何を思い浮かべますか? 高級魚のひとつとして知られている魚、実は旬の時期は地域によって大きく異なります。
本記事では、アマダイのの旬の時期と選び方について詳しく紹介します。
目次
アマダイとは
アマダイは日本各地で愛されている魚で、高級魚として高値で取引されています。ここでは、アマダイの基本的な特徴から、その多様な種類、さらには地域や歴史に由来する多くの別名について詳しく解説します。
アマダイには赤・白・黄がいる
アマダイと一言で言っても、実はアカアマダイ、シロアマダイ、キアマダイといった種類が存在します。
アカアマダイはアマダイの中で最も一般的に流通している種類です。体は赤く、目の下に鮮やかな黄色、ヒレの一部にはコバルトブルーが見られるのが特徴です。体長は45cm前後、重さは1kg~2kg程度とされています。
生息域は広く、日本海から太平洋沿岸、さらには東シナ海や台湾北部にも分布しています。
キアマダイはアマダイの中で最も流通量が少ないとされています。体の色はアカアマダイに似ていますが、顔や尾びれが黄色く、目から口にかけて白いラインが入るのが特徴です。
キアマダイは特に鮮度が落ちやすいため、流通が少ないですが加工品には向いています。
シロアマダイはアマダイの中で最も高級とされています。体の色は白く、特に新鮮なものは赤みが強くなります。身には弾力があり、脂も多く乗っています。これが高級品とされる理由です。
生息域は太平洋沿岸や日本海、東シナ海などに広がっています。
グジなどの別名も
「甘鯛」という名前には諸説ありますが、最も広く知られているのは「鯛のように甘みがあるから」という説です。この甘みは、アマダイの身に特有の旨味として感じられます。
また、漢字で「尼鯛」とも書かれることがあります。横顔が尼僧に似ているという理由から名付けられたという説があります。
関西地方では特に「グジ」または「クジ」とも呼ばれます。この名前は、古代に「屈頭魚(くずな)」と呼ばれていたのがなまって変わったものとされています。
静岡県では「興津鯛」とも呼ばれます。これは、徳川家康に興津という局がアマダイを献上したエピソードに由来すると言われています。
山口県では「バトウ」と呼ばれ、これは頭部が大きいことから「馬頭魚」に例えられています。
アマダイの特徴や生態
アマダイは日本全国、特に青森県以南の日本海や千葉県以南の太平洋沿岸に広く分布しています。この魚は水深30~150mの砂泥底に巣穴を作り、その周辺で生活しています。巣穴は単独で作るものの、集団で一帯に生息していることが多いです。
産卵期は主に秋から初冬にかけてで、孵化した稚魚は成長が早く、1年で約17cm、2年で22cm、3年で25cm、4年で30cmほどになります。特にオスは大きくなる傾向があり、最大で50~60cmにも達しますが、メスは40cm程度が限界です。
アカアマダイの体形は側扁しており、頭部は特有の形状を持っています。体色は全体にピンクで、腹部は白く、目の下はオレンジ色です。その後ろには白く光る帯状の部分があり、体側の中央には黄色から赤の不規則な横縞模様が入っています。背ビレは黄色を含む薄いピンクで、尾ビレは上部がピンク地に黄色い筋が入り、下部は青みがかった色をしています。
アマダイの旬の時期
アマダイはそのおいしさから多くの料理で愛されていますが、そのおいしさを最大限に引き出すためには、旬の時期に捕れたものを選ぶことが重要です。しかし、アマダイの旬は一概には言えません。地域によってその旬の時期が大きく異なるのです。
地方によって旬の異なる魚
日本各地で水揚げされるアマダイですが、旬は共通の季節ではなく、各地方によって異なります。
福井県では鮮度や大きさなどの基準をクリアしたアマダイを「若狭ぐじ」と呼びブランド化しています。旬は8月~11月とされています。若狭湾で漁獲されるアマダイは、ほぼアカアマダイです。うろこを落とさず背開きにして一汐したものをさっと焼いた「若狭焼き」が名物です。
島根県ではアマダイを「コビル」と呼んでいます。アカアマダイが他の「◯◯タイ」という名前の魚に比べて大きくならないことから付いたとされています。旬は7月~10月です。
京都府では「丹後ぐじ」が京料理に使われるアマダイとして有名です。丹後ぐじは京都の北部にある、舟屋で有名な伊根町で水揚げされ、特定の基準を満たしたアカアマダイを指します。刺身のほかに、揚げ物、蒸し物、塩焼き、お吸い物などさまざまな料理に使われています。旬は10月~12月です。
山口県は全国でも有数のアマダイ漁獲量を誇ります。漁獲後に船上ですぐ血抜きするなど、鮮度を維持する工夫を漁協全体で行っているそうです。旬は12月~2月です。
漁獲量の多い県
アマダイは全国で水揚げされていますが、2021年の漁業・養殖業生産統計によると、最も漁獲量が多かったのは山口県で301tでした。次いで長崎県(205t)、島根(116t)、秋田(111t)、福岡(93t)と続きます。
アマダイは年々漁獲量が減少しており、1995年には合計で約2,000tほどでしたが、2021年は約1,200tとなっています。そのため、各地でアマダイの養殖の研究が進んでおり、たとえば山口県水産研究センターでは全国で初めて養殖したシロアマダイから稚魚を大量生産することに成功しています。
旬のアマダイの選び方
アマダイはそのおいしさと多彩な料理法で多くの人々に愛されていますが、その魅力を最大限に引き出すためには、まず選び方が重要です。ここでは、アマダイを選ぶ際のポイントを詳しく解説します。旬のアマダイを見極め、そのおいしさを最大限に堪能するためのコツを、ぜひマスターしてください。
見た目での選び方
魚の目を見るの鮮度を判断するうえで判りやすいチェックポイントです。目がみずみずしく、張りがあり、澄んでいるものが新鮮な証拠です。乾いてくぼんでいるようなものは避けましょう。
可能であれば、エラ蓋を開けて中のエラをチェックすることも重要です。鮮やかな血の色をしていれば新鮮です。
魚の体の張りも確認しましょう硬いものが新鮮です。特にアマダイは柔らかい身をしているため、この点は特に注意が必要です。
皮に光沢があり、色が鮮やかなものは新鮮な証拠です。特にアマダイは色彩が美しい魚なので、この点は見逃せません。
アマダイを使った郷土料理
ここでは、アマダイを主役にした郷土料理に焦点を当てます。
グジのかぶら蒸し
「かぶら蒸し」は、特に京都で冬の代表的なおばんざいとされています。この料理は、京都特有の食材である「グジ(アマダイ)」と「聖護院かぶ」を主要な材料として使用します。かぶはすりおろされ、卵白と混ぜ合わせられます。その後、グジ(アマダイ)、銀杏、木耳、百合根などと一緒に蒸され、最後に銀あんがかけられます。
この料理の魅力は、ねっとりとしたあんと柔らかい白身魚のグジが絶妙に組み合わさる点です。特に寒い冬には、この料理が体を温めてくれるとされています。また、京都ではかぶらと海老芋が冬の味覚の代表とされています。
かぶら蒸しの一つのバリエーションとして、「グジのかぶら蒸し」は、グジの独特の風味と食感が加わることで、一層豊かな味わいを楽しむことができます。グジはアマダイの一種であり、その白身は柔らかく、ねっとりとしたあんとの相性が抜群です。
また、この料理に使用される「聖護院かぶ」は、京都ならではの食材であり、その甘みと食感がこの料理に深みを与えています。かぶらはすりおろされることで、料理全体にまろやかな口当たりをもたらし、グジの風味をより一層引き立てます。
へか
島根県の郷土料理「へか」は、日本海に面するこの地域の豊かな海の恵みを活かした料理です。特に、島根県の大田市では「一日漁」と呼ばれる漁法があり、早朝に港を出て、その日の夕方に近海で捕れた魚を水揚げします。この一日漁でとれるアマダイなどの新鮮な魚介が「へか」に使用されます。
この料理の特徴的な点は、醤油ベースの割り下です。この割り下は甘辛く濃厚に仕立てられ、白身の魚や野菜がよく馴染みます。その結果、見た目はボリューミーでも、味わいはあっさりとしています。
最後にごはんととき卵を加えて、雑炊風にする食べ方もあります。
島根県大田市では、1月10日の晩から翌朝まで漁師が宮にこもる「宮ごもり」という伝統行事があります。この行事は、海上安全や大漁を祈願するもので、漁師たちは宮ごもりを終えた翌日に、「へか」を家族や関係者と共に楽しむ習慣があります。