アジの旬を楽しむ!選び方から保存方法なども解説

光りものの代表格であるアジ。味が良いから「あじ」と名付けられたとも言われるほど、身にうまみのある魚です。そして単にアジといっても、その種類はとても豊富。それぞれの特徴や味わいの違いを理解しておくことで、調理の楽しみ方が広がります。今回は、アジの旬とその時期に合った選び方、郷土料理などを具体的に紹介していきます。 

アジの基本知識

まずはアジに関する基本知識から掘り下げてみましょう。日本近海では約50種類ものアジが生息していますが、日本で一般的に「アジ」と言えばマアジ(真鯵)を指すことが多いです。学名が「Trachurus japonicus」であるほど、日本では慣れ親しまれています。食性は肉食で、動物プランクトン、甲殻類、小魚などを食べています。
アジ科の魚では、マアジの他にムロアジ、シマアジなども有名です。魚料理の幅を広げるためにも、それぞれのアジの特徴を深く掘り下げてみましょう。

アジ科の魚は種類が豊富

マアジは、平均的に30センチから50センチほどの大きさに成長します。刺身やたたき、なめろう、塩焼き、干物などさまざまな料理法で親しまれています。ほどよい脂ののりが特徴ですが、実は高タンパク、低脂肪、低カロリーな魚です。
大きさが5センチから15センチ程度の小さなマアジは「豆アジ」と呼ばれ、唐揚げや南蛮漬けによく使われています。「ジンタ」「ジンタン」という別名もあり、特にサイズが小さいものは「スーパージンタン」などと呼ばれています。小さいのでエラとワタを指でつまんで取り除くことができ、初心者にとって調理も簡単です。

次に、マアジ以外のアジを紹介していきましょう。「ムロアジ」はやや大きめのサイズで、最大で60センチを超えることもあります。和歌山の牟婁(むろ)地方で獲れたことからこの名がついたとされています。ムロアジはマアジに比べると脂やうまみが少ないといわれますが、冬に脂が乗った刺身は絶品です。ただ、鮮度が落ちるのが早く、独特の風味が強いということもあり、干物として流通されることが多いです。特に、伊豆諸島の特産品である「くさや」は、ムロアジを使った代表的な加工食品です。ムロアジの一種であるクサヤモロアジは、名前にクサヤがつくとおり最高級のくさや原料とされます。くさやは独特の匂いによって好き嫌いが分かれるものの、塩辛さと絶妙なうまみから酒のつまみとして重宝されています。

続いての「シマアジ」は、アジ科の中でも特に高級とされる種類のひとつです。透明感があり、上品なうま味と後味に優れることから、刺身や寿司ネタとして非常に人気がありますが、近年では漁獲量が減ってきており、現在ではほとんどが養殖ものです。シマアジは見た目も美しく、体に黄金色の縞模様があることから「縞鯵」かと思われがちですが、明治期に伊豆諸島などからの入荷が多かったために「島鯵」と呼ばれてきたという説もあります。大きなものではなんと1メートルを超えることもあり、それらを東京ではオオカミ、和歌山ではソイと呼び、釣り人たちにとっての憧れの対象でもあります。

マアジは大きく分けて2種類ある

マアジは「回遊型」と「居つき型(瀬付き・根付き)」のふたつの異なる生態タイプが存在しており、味にも大きな差があります。
回遊型のマアジはエサを求めて、沿岸から沖合にかけて広い海域を群れで移動する性質を持ちます。春から夏は東シナ海から日本列島へと北上し、秋から冬にかけては南下します。長い距離を泳いでいることから身は締まり、脂のノリが少ないという特徴があります。また、基本的に小魚を食べていることから身は黒っぽくなり、「黒アジ」とも呼ばれています。

一方で、居つき型のマアジは回遊せず餌が豊富で快適な浅瀬を見つけて居すわって(生息して)います。これらは沿岸部や内湾など比較的狭い範囲で生活しているため、体型はずんぐりしています。丸々と肥えた個体は脂がのっていて味わい深く、市場では高値で取引されています。居つき型の体色は黄色味を帯びることが多く、「黄アジ」「金アジ」とも呼ばれることも。この理由には、浅場の藻場の色に溶け込むため体色が変わるとか、プランクトンを食べているから黄色みを帯びるなど、諸説あります。

アジの旬はいつ?

「あじ」は漢字で書くと「鯵」。「参」は数字の3を表しており、旧暦の3月頃(現代の暦では5月前後)に脂がのって美味しくなることから、この漢字が使われるようになったと言われています。
アジの旬は、地域によって異なるのが特徴的です。特に日本の各地でアジの最も美味しい時期というのがあり、その時期に最適な水温や環境下で獲れるアジは、格別の味わいをもたらしてくれます。

地域による旬の違い

アジの旬の時期は地域によって異なります。令和4年漁業・養殖業生産統計によると、マアジの生産量が多い都道府県は長崎県(51,234トン)と島根県(12,760トン)が突出しています。そこで今回は長崎県と島根県のブランドアジを例として、旬について詳しく見てみましょう。

長崎県では「ごんあじ」と「野母(のも)んあじ」が代表的なブランドアジとして知られており、特に4月から6月にかけてが旬とされます。
「ごんあじ」は、五島灘で旋網で漁獲された250g以上の「瀬付アジ」を指します。漁獲したあと7~10日間エサをやらずに生かすことで、漁獲時のストレスから筋肉中に溜まっていた乳酸が減り、肉質が向上し、霜降りのような旨みが増すとされています。
「野母んあじ」は一本釣りされ、その鮮度を最大限に保つために、細心の注意を払いながら扱われます。どちらのアジも生きたまま漁港に持ち帰り、生簀へ移動させ、高品質なものだけを選び抜いて全国へ出荷していることから、高級ブランド魚とされています。

また、島根県浜田市で水揚げされるマアジは「どんちっちアジ」として知られ、脂のりが非常に良いことで有名です。この地域で穫れるマアジは他産地のものより脂質含有量が高く、旬の期間(主に4月から9月)には脂10%を超え、時には15%を超えることが明らかになりました。一般のアジは約4.5%ですので、数字を見るだけで垂涎ものですね。これは、「カラヌス」と呼ばれる、体の半分以上が脂で構成されているプランクトンが主な栄養源になっているためだと考えられています。
ちなみに「どんちっち」とは、浜田市で盛んな郷土芸能である石見神楽のお囃子の音から生まれた幼児言葉で、「どんちっちアジ」のほかに、「どんちっちノドグロ」「どんちっちカレイ」を含めて「どんちっち三魚」というブランドになっています。

アジの栄養価

アジ(マアジ)の栄養価について、日本食品標準成分表(八訂)増補2023年版のデータに基づいて詳しく解説します。マアジは栄養豊富で健康に良い魚とされており、特にたんぱく質、オメガ3脂肪酸、ビタミン、ミネラルが豊富に含まれています。

たんぱく質は100g当たり19.7gと高く、これは筋肉の健康維持や免疫系のサポートに重要です。脂質は100g当たり4.5gで、このなかには心臓病のリスクを減少させる効果があるとされるEPAとDHAも含まれています。

ビタミンにおいては、骨の健康を支えるために重要ビタミンDが100g当たり8.9μg含まれています。神経系の健康と赤血球の形成を助けるビタミンB12も100g当たり7.1μg含まれています。

ミネラルでは、カリウムが100g当たり360mg、カルシウムが66mg、マグネシウムが34mg含まれており、これらは血圧の調整や骨の健康に寄与します。また、体内でのエネルギー生成に不可欠なリンも230mg含まれています。

これらのことから、マアジをバランスの取れた食事の一部として取り入れることで、特に心血管系、骨や筋肉の健康のサポートが期待できることがわかります。

新鮮なアジの選び方

アジを購入する際にチェックしたいポイントを挙げていきます。目の透明感や体表の質感、うろことヒレの状態など、これらは回遊型でも居付き型でも共通しています。
また、切り身で選ぶ際のパッケージ内の液体、脂の状態などについても説明します。
おいしい一品のために、質の高いアジを見分けられるようになりましょう。

新鮮なアジの見分け方

1. 目のクリアさ
アジに限らず、魚を選ぶときのもっとも重要なポイントは最初に「目を見る」ことです。新鮮なアジの目は透明感があるため、濁りがないことがひとつの指標です。黒目がはっきりしていて、ぷっくりしている目をもったアジを選ぶと良いでしょう。注意点としては、鮮度がよいのにも関わらず、保存のために使われている氷水の影響で目が白くなってしまっていることがあるということ。目以外のポイントも総合して判断するようにしましょう。

2. 体表の質感
新鮮なアジは鮮やかで体表にハリがあり、弾力が感じられます。魚は獲られるときに多少の傷がつくことがありますが、そこから雑菌が繁殖して鮮度が落ちてしまう可能性もなくはないため、できるだけきれいな状態の体表を保ったものを選びましょう。
ちなみに、魚自体の大きさは身のつき方、脂の乗りには関係ないといわれていますが、体に対して顔が小さい個体のほうが、身のつき方はよいです。

3. うろことヒレの状態
うろこ同士がきちんと密着していて、ヒレは破れずに整っているものを選びましょう。水揚げされたあと、ていねいに扱われていた証です。ヒレは赤みを帯びたものがよいでしょう。黄色や茶色に変わったものは鮮度が落ちています。

切り身で買う時の注意点

1. 透明感と張り
新鮮な切り身は透明感があり、肉質に張りが感じられます。表面がべたつかず、乾燥していないことも大切です。

2. 色と臭い
肉の色は鮮やかなピンクが望ましく、魚特有の生臭さが少ないことが新鮮な証拠です。

3. パッケージの液体
パックの中の液体(ドリップ)が少ないものを選ぶこと。液体が多いと鮮度が落ちている可能性があります。

4. 脂の白さ
脂が白く盛り上がっているものは脂が乗っており、風味豊かです。

これらのポイントをもとに選ぶことで、質の良いアジの切り身を味わうことができます。

アジをおいしく食べるための保存方法

冷蔵保存のコツ

1. 水分を拭き取る
アジの内臓、血合いなどをとり除いて洗ったあとは、表面や内部に残っている水分をしっかりと拭き取りましょう。腐敗の原因となります。
アジの両面に塩を振り、20分程度おいたあとに再び余分な水分を拭き取るのも、手間はかかりますがおすすめです。

2. 空気に触れさせない
アジをラップや密閉容器で包むことで、空気に触れることを最小限に抑え、鮮度を長く保つことができます。

3. 低温で保管する
冷蔵庫の中でも特に温度が低い部分(チルド室)に保管しましょう。
アジの冷蔵保存期間は通常、購入後2〜3日以内です。切り身の場合は当日〜1日以内に食べましょう。もし食べきれない場合は漬けなどにすると、もう1日程度は伸ばせます。何にせよ、鮮度が命の魚ですから、早めにいただくのが一番です。

冷凍保存のポイント

1. 下処理を丁寧に行う
アジの内臓を取り除き、きれいに洗うことが重要です。水気をよく拭き取り、血合いをきれいにすることで、臭みを防ぎます。

2. 適切に包む
アジを1枚ずつラップでしっかりと包み、空気に触れるのを最小限に抑えます。さらにジップロックや専用の冷凍保存袋に入れるとより効果的です。

3. 冷凍前の下味付け
塩や酢、調味料で下味をつけてから冷凍すると、解凍後すぐに調理ができるうえ、風味もよくなります。

一般的にアジは生のままであれば、約3週間から1か月が冷凍保存の目安です。これらの方法でアジを適切に冷凍保存すれば、いつでも新鮮な状態でアジを楽しむことができます。

アジを使った郷土料理

画像引用元:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/ryukyu_oita.html)

アジを使用した郷土料理は、その地域の風土や歴史が色濃く反映された多彩な料理です。ここでは、大分県の「りゅうきゅう」と香川県の「アジの三杯」という二つの代表的な料理を取り上げます。

りゅうきゅう

大分県の「りゅうきゅう」は、地元で獲れた新鮮な魚を使った郷土料理で、特にアジや他の季節の魚をうまく活かしています。魚を醤油、酒、みりんで味付けしたタレと和えて作られており、さらにごまやしょうがを加えることで独特の風味が生まれ、シンプルながら深い味わいが楽しめます。
「りゅうきゅう」はもともと漁師の間で食べられていたまかない飯や保存食として親しまれていましたが、現在では地域を超えて愛されています。大分県内では、この料理を通じて地元の魚の消費を促進し、郷土料理としての認知を高める取り組みが行われています。

アジの三杯

「アジの三杯」とは香川県の伝統的な郷土料理で、新鮮なアジを焼いて三杯酢に漬けたものです。三杯酢は酢、醤油、砂糖、だしで作られ、刻みしょうがやみょうがなどの薬味が加えられます。この料理は保存性が高く、夏の暑い時期にもぴったりの一品です。焼きたてのアジを熱いうちに三杯酢に漬けることで、味が染み込み、魚の骨も柔らかくなります。

なめろう・さんが焼き

画像引用元:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/sanga_yaki_chiba.html)

「なめろう」は、細かく切ったアジの刺身に味噌やねぎ、生姜などを混ぜて、粘りがでるまでたたいた料理で酒のあてとしても人気ですが、これが実は千葉県の郷土料理だということはご存じでしたでしょうか?房総半島の漁師たちが、獲れたての魚を不安定な船上で調理するために考案されたものです。あまりにおいしい料理なので、皿まで舐めてしまうことから「なめろう」という名前がついたという説があります。
しかし鮮魚は傷みやすいことから、なめろうに火を通して食べる「さんが焼き」が生み出されました。さんが焼きは、アワビやホタテの貝殻になめろうを詰めた料理です。漁師たちが山で仕事をするときにはこれを持って行き、山小屋で蒸したり焼いたりして食べていました。山の家で食べた料理ということで、この料理を「山家(さんが)焼き」と呼ばれるようになりました。

ほかにもさまざまな料理に使われているアジ。神奈川県・湘南地方では、「鯵の押し寿司」が名物となっています。明治31年創業「湘南鎌倉 大船軒」さんの駅弁として人気に火が付きました。アジの薄皮が付いたまま調理されているので、歯ごたえのある独特な食感が楽しめます。大正2年の販売開始当時は、アジが江ノ島近海で湧くように獲れたそうです。
余談ですが、日本で最初にサンドイッチを駅弁として発売したのも大船軒さんです。


いかがでしたか?アジは身近な魚ですが、意外と種類も多く、生態も奥深いですね。ぜひこの基礎知識を活かして、最高のアジを召し上がってみてくださいね。

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