たこ焼きの次は明石焼きに挑戦
粉物文化圏外の初心者にも関わらず、以前のコラム記事で「たこ焼き」に挑戦したところ、
大阪の方から、
「オタフクソースは大阪じゃないだろ!」とか
「こんな焼き方しとるんか!」とか、
とにかくSNSでボロカスに怒られましたが、性懲りもなく、今度は「明石焼き」に挑戦してみました。
寡聞にして、
「明石焼きが元祖。大阪のたこ焼きはパチモノや!」
とか言っている明石市の方はあまり存じ上げないので、きっと寛容な方が多いのでしょう。初心者が少々ヘタくそに作っても笑って許してくださるはず。
そもそも本物の明石焼きを食べたことがないので新橋駅前へ
東京にいると、明石焼きはたこ焼き以上にめったにお目にかかる機会がない希少種。明石焼きのレシピを考える上では、まずは本場の明石焼きを食べることが必須です。
とはいえ「明石焼き食べるために明石市に出張に行ってきます」と言う出張申請が会社で通るはずもなく、
「まずはここに行ってみるということで…」とあっさり申請を却下しつつも管理部門のスタッフが探しててくれたのがコチラ。
その名も「明石ニューワールド」。
新橋駅前に建てられてから半世紀以上。手相占いから、あやしげなマッサージ、そしてタイムスリップしたかのようなゲームセンターまであるサラリーマンのカオス世界「ニュー新橋ビル」のB1Fに、本場の明石焼きが食べられる「新世界」があるとは…
おおっ、これが本場の明石焼きですか…
地元では「玉子焼き」と呼ばれるだけあって、見るからに玉子焼き感があるふわとろ系。つけ汁に浸して食べてみると、中味がほぐれてしまうほどの予想以上の「ふわとろ」です。
さすがサラリーマンのカオス世界「ニューワールド」。明石焼きとともにマジシャンも登場。なかなか楽しめます。
たこ焼きと明石焼きの違い
マジックはさておき、ここで、たこ焼きと明石焼きの作り方の違いについて改めて整理してみましょう。
(1)たこ焼きは外がカリッと中はトロ〜リだけど明石焼きは全部ふわとろ
たこ焼き実験での、粉:出汁(水)の比率は、
おうちで作るたこ焼きセット 粉:出汁(水)=1:3.1〜3.3
お店で作るような中はトロ〜リ 粉:出汁(水)=1:4
でした。当然ながら出汁の量が少ないほど簡単に返せて、簡単に焼くことがでます。
でも、この明石焼きの感じでは、粉:出汁(水)=1:10
ぐらいかも… かなり初心者には難易度が高そう。
(2)たこ焼きの粉は基本的に小麦粉だが明石焼きには「じん粉」が使われている
「じん粉」とはつまり「浮き粉」。製菓材料などによく使われますが、つまりは小麦粉からグルテンを取り除いた「小麦でんぷん」です。
明石焼きは、ふわとろ感を出すために、小麦粉と浮き粉を配合して生地を作ります。
(3)明石焼きは玉子焼きだから…
明石焼きは地元では「玉子焼き」と呼ばれるぐらい卵の量が多く、たこ焼きより「玉子感」がかなり強いです。そしてごらんの通り、うまく焼くと焼き目が極めて薄い焼き具合になっています。焼く時の加熱温度も、たこ焼きより低いのかな…
それにしても時間が経ってもほとんどシワがよらないのはなぜ?不思議です。
明石焼きはすべてがトレード・オフの関係
初心者にとって明石焼きが難しそうに感じるのは、この(1)〜(3)の条件がすべて焼きの難しさとふわとろ感がトレード・オフの関係にあることです。
(1)の粉:出汁(水)の割合が小さければ小さいほど、焼いた時に表面が早く固まり、返すのが簡単になります。しかし粉:出汁(水)=1:10だとすると実際にはかなりシャバシャバの生地で、火が入ってもふにゃふにゃ、初心者には返すのが至難の技になるはず。
(2)のじん粉(浮き粉)と小麦粉の割合も、じん粉が多ければ多いほどふわとろ感は増しますが、表面が固まらなくなって、これまた返すのが至難の技になるでしょう。
(3)も同じく、加熱温度が高ければ表面がカリッと固まりますが、表面のふわとろ感が減り、焦げ目がつきやすくなります。
実際に焼いているのを見てみるしかない
こうなると、これは実際に焼いているところを見せてもらってイメージ・トレーニングするしかありません。ということで、明石ニューワールドのお姉さんが焼いているところを撮らせてもらいました。
途中からなので、ちょっと分かりにくのですが、予想以上に焼くペースはスローで、火もかなり弱火な感じです。
使い込んで油が染み込んだ銅製の明石焼き器は、とても滑りが良さそうで割り箸2本を使って器用に返していきますが、Reproにプロファイルのある表面がザラザラした南部鉄器のたこ焼き器でこんなにスムーズに返せるのなかなあ…
ところで明石焼きって、なんであの寿司下駄みたいな盛台に乗せるのかな?って前から不思議に思っていたんですが、やっぱり、ふにゃふにゃ過ぎて焼き器から箸とかで取り出せないので、オムレツみたいにペロンと返すためだったんですね。
明石焼きはダム?土手を作るのがコツなのか
それと重要なポイントは、この部分です。
たこ焼きだと、いったん、たこ焼き器一面に広がった生地は、たこ焼きをまんまるに成形するために焼きながら穴に詰め込んでいきます。
でも明石焼きでは穴に詰め込むと言うより、逆にきれいな「土手?」を作って、「シューマイを詰めているような状態」になっています。
明石焼きは生地がシャバシャバなので、なかなか中の生地が固まりません。沸騰して体積が膨張し、中のシャバシャバが外側に再度決壊してしまうと、薄く固まったシャバシャバが引っかかって、うまく返せなかったり、元々ふわとろの皮が破けてしまったり。
だからといって1回決壊させるまで待ってから中に押し込んで焼くと、どうしても5〜6分ぐらいかかり、焼き目がこんなきれいに薄くはなりません。
「先に固まった生地で穴の周りに土手を作る=ダム状にして中のシャバシャバを決壊させないまま返す」
これが、うまく、かつ早く(つまりはあまり焦げ目がつかないうちに)明石焼きを返すためのコツなのかもしれません。とは言ってもこんな感じにきれいに土手を作ること自体、初心者にはハードルが高そうですが…
本当は強火でガッと焼くんですが…
明石焼きを焼いているおねえさんに素直に聞いてみました。
「ずいぶん弱火でゆっくり焼くんですね?」
「本当は、強火でガッと焼いちゃうんですけど、オーダーが一気に入った時はゆっくり焼かないと目が届かないので…」
そうか、明石焼き器は1枚で8個焼き。これぐらいが一度に焼くのにちょうど良い個数なんでしょう。
ということは加熱温度を下げてスピードを落とせば初心者でもうまく焼けるかも…
などと言う参考情報も踏まえて、色々なパラメーターを変えてさっそく実験してみました。
明石焼き実験開始!
【実験1】粉:出汁(水)の比率を変えてみる
粉:出汁(水)の比率が低ければ低いほど焼きやすいことは分かっているので、まずは以下の2つのレシピで比較してみました。
- レシピ1
- 加熱温度=180℃
- たまご 2個
- 水 250ml
- じん粉(浮き粉) 25g
- 薄力粉 15g
- ベーキングパウダー 0.8g
- ヒガシマルうどんスープの素 5g
このレシピだと、粉:水 = 1:6.25 になります。
- レシピ2
- 加熱温度=180℃
- たまご 2個
- 水 250ml
- じん粉(浮き粉) 20g
- 薄力粉 10g
- ベーキングパウダー 0.8g
- ヒガシマルうどんスープの素 5g
こちらのレシピだと、粉:水 = 1:8.33 になります。お店のたこ焼きの約2倍のシャバシャバ生地ですね。加熱温度=180℃にしたのは、ネットのレシピでそんな記述がいくつかあったからです。
「ダム方式」は採用せず(というかうまくできないので)、普通のたこ焼きと同じ焼き方をしましたが、予想通り、粉:水の比率が低いと早く返せるので焼き目も薄くきれいに焼くことができるのに対し、シャバシャバ感が増すと返せるタイミングが遅くなるので焼きめが濃くなってしまいます。ぐっと難易度も上がります。
ただ一方で、1:6.25(つまりは粉=40gで水=250ml)だと、すこしねっとりした「たこ焼き感」が出てしまいます。
あの明石焼きのふわとろ感を出すためには、最低でも1:8.33(粉=30gで水=250ml)ぐらいシャバシャバにしないと…
【実験2】加熱温度を180℃→160℃に下げてみる
今度は、実験1のレシピ2(1:8.33)のまま、加熱温度を180℃→160℃に下げてみました。
ちょっと分かりづらいのですが、160℃に下げるとちょっとだけ焼き目が薄くなります。しかしかなり焼きがスローダウンするので、返すタイミングの見極めがさらに難しくなる上に、穴の温度差がかなり気になり始めます。
詳しくは、以前のコラム記事にあるのですが、
今回の実験に使っている「岩鋳 たこ焼14穴(木柄付)」は、穴の温度差が最大で20℃前後ありました。つまりは、160℃で加熱すると一番温度が低い穴は約140℃になってしまいます。ここまで加熱温度が低いと、確かに焼き目はなかなか付きませんが、一方でかなり焼くのに時間がかかると言うか、うまく焼けません。このトレード・オフの関係も厳しいです。
【実験3】粉の配合(じん粉:薄力粉)を変える
ここまでは、じん粉:薄力粉=2:1 の割合でした。
薄力粉を増やすとふわとろ感が減る代わりに焼けやすくなり(=返しやすくなる)、将来的にダム方式にトライする際にも土手の厚みが増して「土手構築作業」にメリットがあるはずです。
ということで、実験2での加熱温度=160℃のまま、これまで 2:1 だったじん粉と薄力粉の割合を 1:1(じん粉=15g 薄力粉=15g)に変えてみました。
写真ではあまり表面の色の変化は分からないのですが、ダム方式を採用しなくても、薄力粉(小麦粉)の割合を増やすだけでちょっと返しやすくなります。
そして、そこまでふわとろ感が失われたという食感もありません。
ただ、焼きやすいのは、やはり160℃より180℃。ダム方式を使うことができ、早いタイミングで返すことができれば、「じん粉:薄力粉 = 1:1で加熱温度 = 180℃」がベストな気もします。
ちなみに最初に「粉:出汁(水)= 1:10ぐらいかなあ」と推測したので、実際に 1:10 も試してみましたが、シャバシャバ過ぎて難易度が高く、とても素人の手には負えそうになかったので早々に撤退しました…
ダム方式にチャレンジしてみたけれど…
ということで、加熱温度・成分比ともおおよそメドが立ったところで、満を持して「ダム方式」にチャレンジ!
ところが…
たこ焼き器(明石焼き器)の形状に違いが
結論から言えば「ダム方式」はできませんでした。
理由は、もちろん「技術が未熟」というのが前提にはあるのですが、
(1)たこ焼き器の穴と穴の間隔が狭すぎて、ダムの土手を作る材料が確保できない。
上の写真を見ていただくと、プロ仕様な明石焼き器は、縦二列に穴が並んでいて穴の両脇と真中に約2cmぐらいの間隔があるのに対し、今回のたこ焼き器は穴の周りのスペースが狭すぎて、十分な高さの土手を作る生地が確保できません。
(2)縁の高さも低すぎて、ダムの土手を作る材料が確保できない。
プロ仕様な明石焼き器の縁の高さは約1cmあるのに対し、今回のたこ焼き器の縁の高さは約5mm。たこ焼きの場合は粘性があり、すぐに固まり始めるので、縁の高さギリギリまで全面に生地を張れました。
しかし明石焼きでそれをやるとシャバシャバで生地がなかなか固まらないため、縁の高さに余裕がないと、固まるより先に水分が膨張してしまい、外に生地がこぼれ出してしまいます。
そのため、上の写真ぐらいの生地の量が限界。これも土手を作る材料が足りなくなる原因です。
結果、プロの明石焼きに「土手」があるとすれば、こっちは、ただ余った生地を「ほんの気持ち寄せた」だけ。到底「シューマイ」とは程遠い状態に。
最終的な焼き方の結論
きれいなシューマイ状態にできないのなら、中途半端に生地をひたひたにするのは逆効果です。ということで、
生地の量は穴から溢れないギリギリで
ここはいさぎよく(というか初心者らしく)写真のとおり、まずは穴の半分ぐらいまで生地を流し込み、タコなど具材を入れてちょうど穴いっぱい(=ギリギリ溢れない量)になるように追い生地して調整します。
加熱温度=170℃で
これまでの実験で加熱温度を180℃→160℃に下げると焼き目が薄くなるけど、穴の温度差により、最も温度の低い穴の焼き加減が難しくなります。そこで折衷案として、
加熱温度=170℃
にしてみます。
初心者は割り箸とたこ焼きピックの二刀流 そしてスプーン
明石ニューワールドの動画を仔細に観察していると、明石焼きの場合は、土手の部分を箸でつまみ、2本の割り箸で両側から軽くすぼめて穴と明石焼きの間に隙間を作り、箸を器用にひっかけて返しています。(そもそも割り箸なので、まんま表面と穴の隙間に深く差し込みようもないのですが)
プロを真似て「割り箸2本使い」で返してみたいところですが、今回は土手がないので、割り箸を引っ掛けるところがありません。そこで編み出したのが、
「割り箸1本とたこ焼きピックの二刀流」。
このやり方ならなんとかうまく返せるかも…
スプーンは明石焼きを取り出す時に使います。
まずは1回6個焼きから
プロ仕様の正式装備でも1回8個焼きです。今回のたこ焼き器は14個焼きですが、未熟者が1度に14個も焼くのはかなりリスキーかと。まずは1回6個焼きで試してみます。これなら穴の温度差もあまり気にならないですし、そもそも「穴があったら全部使わなければいけない」という考え自体が既成概念に囚われていたのかも。
初心者でもふわとろ明石焼きが簡単にできました
なかなか言葉で説明しても分かりにくいので、動画を撮ってみました。(ヘタなのでかなり恥ずかしいのですが)
このたこ焼きピックと割り箸1本の二刀流なら、ふわとろな生地を初心者でもかなり早く返せるので、それなりにお店っぽい感じの仕上がりが可能に。
お店なら寿司下駄のような盛台を持って、最後は明石焼き器ごとぺろんと返すところですが、そうもいかない場合もあるでしょう。(南部鉄器のたこ焼き器はかなり重いですし)
そんな時は動画のように、たこ焼きピックで隙間をちょっと空けてスプーンを差し込んで取り出すのがベストです。
最後におまけ
ちなみに今回は、できるだけお店の感じに近づけようとシャバシャバの生地にしたので、かなり苦労しましたが、ご家庭で作るレベルのふわとろ感(粉:出汁=1:5ぐらいとか)なら、家庭用の小さいたこ焼き器でも、ザッと全面に生地を広げて、割り箸2本で簡単に焼くことができます。
それが、あるレベルを越えた瞬間に、めちゃくちゃ難しくなったり、道具を選ぶ必要があったりするところが料理の難しい(もしくは面白い)ところです。
ちなみに南部鉄器のザラザラした表面は、ふわとろの明石焼きをスルッと返したり、シャバシャバの生地をまとめたりするのには、あまり向いていないのかもしれません。
とはいえ少しづつ明石焼きにも慣れてきたので、今後は徐々に1回に焼く個数を増やすのにチャレンジしてみたいと思います。
明石焼きの具はかなり自由?
もう一つおまけを。明石焼き実験の前に、さまざまな動画を見て勉強したのですが、楽しかったのがコレ。
JALのCAさんが、出身地のご当地グルメを紹介してくれる動画。きれいなCAさんが失敗しつつも自分で明石焼きを焼きながら説明してもらえるのが、なんとも微笑ましいです。
この動画では、明石焼きの具材として、たこだけでなく焼厚揚げや、すじこん(牛すじとこんにゃくの甘辛煮)を入れていました。
明石焼きは地元では、それぞれのお店や家庭で色んな具材を入れて楽しむ料理のようです。
スタッフイチオシの具は「釜揚げしらす」
実験の過程で、たこ以外の具材も試してみましたが、Repro開発スタッフ イチオシの具材は「釜揚げしらす」でした。粉物文化圏外出身のスタッフからは「たこよりしらすの方が美味しい」との意見も。
釜揚げしらすに九条ねぎを加えたバージョンも結構いい感じです。
ただ釜揚げしらすはそれ自体に塩味があるので、生地の元々の味付けをたこの場合よりちょっと薄めにすることをお勧めします。
これはいけるかと思い、明石焼きのつけ汁の定番の「三つ葉」を九条ねぎに変えてみましたが、こっちはあまり美味しくありませんでした。やっぱり明石焼きのつけ汁には三つ葉が一番合うみたいです。
「たこ焼き」は名前自体が「たこ」だから、たこ以外の具材を入れるなんて考えてもみませんでしたが、明石焼き(=玉子焼き)はもっとおおらかに楽しめるところもちょっと自由度があって良いかもです。
とにかく明石焼きは、食感も味も優しいので、色々な食べ方と相性が良さそう。プロっぽく焼こうとすると初心者にはちょっと難しいところもありますが、今回の実験で明石焼きがだんだん好きになってきました。
Reproレシピはコチラから。