餃子の焼き方について疑問を持ち始めたそもそものきっかけは、なんとあの麻布台ヒルズのマーケットに「亀戸ぎょうざ」が進出したこと。
亀戸ぎょうざ麻布台ヒルズ店はこんな感じ。
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亀戸ぎょうざの焼き方
で、早速購入したのが冷凍餃子16個入1404円(本体価格1300円)。たしか本店だと5個で270円だったから1個当たりのお値段が約1.5倍ですか…
まあテナント料もろもろを考えればやむを得ないんですかね。
で、本題はお値段ではなくて、その焼き方です。
こちらは冷凍亀戸ぎょうざに同封されている焼き方の説明書き。気になったのは「中火で焼目を付け、…」という部分。つまり、先に焼目を付けてから熱湯を少量入れて蒸し焼きにするのが亀戸ぎょうざのお作法ということ。
これまで、餃子の焼き方と言うと、「油を入れて餃子を置き、お湯を入れて先に蒸し焼きにしてから、水分が蒸発して次第に焼目がついて完成」というのが普通だと思っていました。
宇都宮みんみんの焼き方
例えば、こちらは有名な「宇都宮みんみん」の冷凍餃子。
赤枠の中を読むと、当然ながら先に餃子の半分から1/3ぐらいの高さまで熱湯を入れて蒸し焼きにし、水分が蒸発してから焼目が付いたら完成です。(よくフライパン表面のハネの色=餃子底面の焼目の色、なんて目安にしますが)
熱湯の量はともかく、これが普通の餃子の焼き方だとこれまでは思っていました。
蒸し焼きが先か?焼目が先か?
つまりは、蒸し焼きが先か?焼目を付けるのが先か?どちらがより良い焼き方なのか?という素朴な疑問が生じてしまったわけです。
もちろん亀戸ぎょうざ麻布台ヒルズ支店の店員さんにも聞いてみました。
「最初にお湯を入れて蒸し焼きにするのが一般的な気がするんですが、どうして先に焼目を付けるのですか?」
「う〜ん、まずうちの餃子は野菜メインで肉が少ないので、そこまで火を通す心配がないっていうのと、あんまり底面を焦がし過ぎないようにさせたいってことですかね。ちなみにお店でも同じやり方で焼いています。」
う〜ん、分かったような分からないような…
餃子を焼く最適温度は180℃
時を同じくして、noteに公開されている、焼き餃子協会 代表理事の小野寺 力さんのこの記事を読んだのも、餃子の焼き方について考えさせられた一因でした。
詳しくは、この記事をお読みいただければよいのですが、要点は、
(1)餃子の皮に焼目が付くのはメイラード反応なので、160〜180℃で反応が進む
(2)なので最高の焼目を付けるには180℃で1分間焼けばよい
(3)それ以上の高温で焼くと油の種類によってスモークポイント(発煙点)を超えるので、油が焦げて美味しくなくなる
ということです。
大抵のレシピを見ると、餃子の焼き方について強火で、とか、200℃以上で、とか威勢の良いことが書かれています。本当に180℃で焼目が付くのかな?
まずは「餃子の皮」で実験
まずは実験です。とは言え、1個88円(税込)の亀戸ぎょうざで失敗するのは痛いので、餃子の皮だけで実験してみることにしました。
160℃・170℃・180℃とラードで1分間焼いてみたところ、小野寺さんの言う180℃で1分加熱してもほとんど焼目は付きません。
加熱時間を4分に延ばしても、180℃でもせいぜいこの程度の焼目しか付きません。
なぜだか分からないけれど、餃子の皮だけではうまくできないのでしょうか?
こうなったら失敗が怖いけど、本当の亀戸ぎょうざで実験してみましょう!
餃子1個だけで比較実験
亀戸ぎょうざの説明書きを元に以下のReproレシピを考えてみました。
(1)ラードを入れたフライパンを180℃に加熱
(2)餃子1個を入れて4分間焼目を付ける
(3)熱湯15mlを加え、ほぼ水分が蒸発するまで=4分間180℃で加熱
(4)その後、140℃まで放熱して140℃で2分間加熱=説明書きにある「弱火で3〜4分焼く」を再現
このレシピで、直径15cmの小さいフライパンを使い、亀戸ぎょうざと宇都宮みんみんを1個づつ焼いてみました。
ところでその前にお手本にするため亀戸ぎょうざ麻布台ヒルズ店で、すでに焼いてある餃子を購入しておきました。
結構、きっちり焼目が付いた感じの仕上がりですね。説明書きにも「餃子の下面がカリッとしたら焼き上がりです」とあるので、底面カリッと仕上げが亀戸ぎょうざの特徴なのでしょう。
ということで、前述のレシピで焼いてみると…
う〜ん。亀戸ぎょうざの焼目はお手本にやや近くなっているものの、実際に食べてみると、底面がカリッとし過ぎた食感です。そんなに焦げていないのに不思議だなあ〜
一方の宇都宮みんみんの場合は、底面にほぼ焼目が付いていないのに、側面がカリカリに乾いていてとても食べられたものではありません。
とても不思議です。見た目そんなに違いがない餃子なのに、同じ焼き方をしてこれだけ違いが出るとは…
メイラード反応を起こしやすい皮の成分とか、餃子のあんや皮に含まれる水分含有量が異なるのでしょうか…
まずは亀戸ぎょうざを上手く焼くことに専念
色々難しそうなので、まずは亀戸ぎょうざを上手く焼くことに専念。
餃子の皮→餃子1個と実験材料をケチって来ましたが、理由は分からないものの、どうも実際に餃子を焼く状態に近づけるほど(つまりは複数個の餃子をいっぺんに焼いてみるほど)、仕上がりが良くなるようです。
餃子の数は4〜5個。直径20cmのシリコン樹脂加工のフライパンを使用します。
この条件を前提にレシピを改良してみました。
この後の試行錯誤の長い道のりは割愛するとして、結果的には、まあまあお手本に似た感じに焼けることができるようになりました。焼目は強めに付いているけどカリッとし過ぎず、そこそこの出来具合です。
Reproでのレシピは上記のとおりです。作り方を説明すると、
(1)フライパンにラードを適量入れ、60℃に加熱する(これはラードを溶かす工程です)
(2)ラードが溶けたら冷凍された状態の亀戸ぎょうざを4〜5個置いて、ふたをして180℃に加熱
(3)180℃に達したら2分間加熱キープ
(4)2分経ったら熱湯5mlを餃子にかからないようにかけ回してふたをして180℃で2分間キープ
(5)2分経ったら140℃まで自然放熱し、140℃まで下がったら1分間キープして完成
不思議なことに餃子の皮だけを180℃で4分間加熱しても、こんな焼目は付かなかったのに餃子だと結構きっちり焼目が付きます。そして「180℃での焼きの時間+180℃の蒸し焼き時間=4分以内」だと底面がちょうど良い「カリッと感」に仕上がります。
最大のポイントは水分量
冷凍亀戸ぎょうざの説明書きには、加える水分量について
「餃子16個に対して約30cc〜50ccの熱湯を…」
と記されていますが、では4個から5個の場合はどのぐらいの水分量が適正なのか?が一番難しいハードルでした。
特に亀戸ぎょうざは、説明書きに「上手に焼くコツは、熱湯の量を少なめに」と念押ししています。確かに水分量多めで焼いてみると水分を吸いすぎて側面の皮が簡単にふにゃふにゃになりやすい傾向があります。
そしてもう一つの大きな問題がこれです。大抵の家庭にあるふた付きのフライパンはこんな感じではないですか?
今回の実験で使ったフライパンはSCANPAN CTX20cm。ふたは重いガラス製で結構きっちり密閉してくれます。これで「亀戸ぎょうざ方式」(=先に焼いてから蒸し焼きする)を実行してみると… 動画で撮影したのでごらんください。
この動画の映像のように、ラードが溶けたらぎょうざを置き、180℃で2分間焼目を付けてから、20mlの熱湯をかけ回してふたをすると、密閉度が高いので、油に接触して急激に膨張した水分が水蒸気爆発のようにふたを押し上げて、周囲に油と水滴を撒き散らします。
このふたは重いガラス製なのでこの程度で済んでいますが、軽いふただと吹き飛んでしまうほどの爆発的圧力になります。
爆発の瞬間を静止画像で見ると1cm以上ふたが浮き上がっています。
正直、危ないです。へたをすればやけどします。
お店などでは、良いあんばいに水蒸気が抜ける木の板をふた代わりにしたりするのでしょうが、一般家庭で木の落としぶたを餃子焼く時のふたにするって言うのもねえ…
落としぶたが油でベトベトになります。それにちょうど良いかんじに水蒸気が抜けるふたが見つかっても、けっこう周囲への「油はね」は気になります。
これは、水蒸気爆発した後の油はねの様子です。写真だとちょっと分かりにくいんですが、けっこうな惨事です。うまい具合にふたをずらしても、それなりに油はねはしんどいでしょう。
改めて問題点を整理
冷凍亀戸ぎょうざの説明書きにはこう書いてありました。
餃子16個に対して約30cc〜50ccの熱湯を直接餃子にかからないように鍋のふちから回し入れ、ふたをして水分が無くなるまで中火で蒸し焼きにしてください。
しかしこれは、「適正なサイズのフライパンと、良いあんばいに水蒸気が抜けるふたをした場合」という前提があってのお話でした。
水蒸気爆発も起こさず、かつ仕上がりがふにゃふにゃにも乾き過ぎにもならず、一般家庭なら油はねも少なく作るには、かなり複雑な連立方程式を解かないといけないはずです。
そもそも水蒸気爆発も仕上がりも、正確には餃子の個数との比率ではなく、フライパンの大きさ(=さらに正確にはフライパンにふたをした時の空間の体積)と水分量の比例関係ですし、ふたがどれだけ水蒸気を逃がす構造になっているか(=どれだけの密閉度があるか)も仕上がりに重要です。
とは言え、ここで「ボイル・シャルルの法則」を持ち出すのも面倒です。
SCANPAN CTX20cmでの最適な水分量は小さじ1杯
ということで、難しいことははしょって結論を。ちなみに今回の実験で使ったSCANPAN CTX20cmに、同じSCANPANのふたをかけた時の中の空間の体積は約1480立方センチメートルでした。このフライパンにふたをかけたままの状態で最も仕上がりが良かった水分量はなんと、わずか「5ml=小さじ1」でした。
それでも水蒸気爆発を起こすか起こさないかギリギリのラインです。なので、
と、この写真のとおり、熱湯小さじ1をかけ入れたら、ふたを軽く抑えてあげます。ただしこの方法も決して責任を持ってお勧めできるものではありません。SCANPANのふたはガラスの強度もあるので大丈夫そうですが、中には圧力でガラスが破損してしまうふたもあるでしょうし、水分量を間違えると危険なことになるので、必ず自己責任でお願いします。
そして、Reproのマルチステップで言うとSTEP03を終え、180℃から140℃に放熱し始め、フライパンの中が落ち着いてきたあたり以降にふたをちょっとずらし余分な水分を飛ばします。
熱湯をかけ回した直後にふたをずらすのが一番安全ですが、このタイミングでの「ふたずらし」は、それなりに油はねを生みます。
重ねて言いますが、油はねを減らすのか?安全性を重視するのか?はくれぐれも自己責任で判断してください。
色々、難しい問題はあるものの、このやり方だと、かなりそれっぽい仕上がりになりました。
(【参考情報】このフライパン(=直径20cm)で最大8個まで一度に焼けたので、冷凍亀戸ぎょうざの1/2パックまでいけます)
焼き餃子協会 代表理事の小野寺 力さんの「180℃最適温度説」も立証された感じです。それにしても、亀戸ぎょうざはかなり手強い相手でした。
でも、野菜多めの、このタイプの餃子 好きなんですよね〜
もちろん本店や各支店で食べるのがベストなんでしょうけど、皆さんも麻布台ヒルズにお立ち寄りの際には、「おうちで亀戸ぎょうざ」をお試しいただければ。(くれぐれも水蒸気爆発→やけどには注意して)
Reproユーザーの方は、レシピを公開しておきましたのでこちらをアプリから本体に送信してください。
最後に
今回完成したレシピは、あくまでもSCANPAN CTX20cmとSCANPAN純正のふたを使用した場合のみに完結したものであって、フライパンの大きさ(ふたも含めた空間容量)やふたの密閉性が異なれば、加える水分量は変わってきてしまいます。
「水蒸気爆発」と「油はね」と「仕上がり」の3つの要素のどれかを諦めれば、この連立方程式は一気に簡単になりますが…
さすがに水蒸気爆発は安全性に関わるので無視できない問題だし、仕上がりはやっぱりベストにしたいでしょう。そうなると譲歩できるのは「油はね」ですかね。
「少々油はねしてもしょうがないや」
と割り切って、熱湯をかけ回したあとに少しだけふたをずらしてあげれば、あとは餃子のふやけ具合?を見てふたを閉じたりずらしたりして調節するだけでほとんどの問題は解決します。(Reproの定量的なレシピ作成からは、いささか遠のいていきますが)
いずれにせよ、餃子の世界は簡単そうに見えて、本当はいろいろな要素が微妙に絡み合っている奥の深い世界でした。
ということで、次回は主流派的な焼き方(=蒸し焼きしてから焼目を付ける)の「宇都宮みんみん」をテーマに、これも小野寺さんの「180℃最適温度説」が適用されるのか?実験してみたいと思います。(餃子1個実験ではほとんど焼目が付かなかったので実験結果は今から興味津津です)