魔改造電動かつお節削り器で豊かな暮らし

かつお節を削ったことがありますか?

 これをお読みになっている皆さんは、かつお節を削ったことがありますか?ない?そもそも「節」としての実物の「かつお節」を見たこともない?
そうでしょうねえ… 高級和食店の料理人でもない限り、自分でかつお節を削った経験がある方は、現在の50歳代〜60歳代以上でしょうか。(渋谷・かつお食堂のかつおちゃんこと永松真依さんのような例外は別として)
昭和のある年代までは、学校から帰ったら、晩ごはんの手伝いとして子どもが「かつお節削り」を命ぜられるのは、ごく当たり前の景色でした。
このお手伝いがキライでした。理由は至極簡単。そもそも重労働な上に、安い削り箱(かつお節削り器)で安いかつお節を削ると、粉々になり、きれいに削れない。小学生の子どもながら「まったく仕事の達成感が得られない」ままに、母に仕上がりを怒られる…
そんな光景がある時期を境にパタッとなくなりました。決して裕福な家ではありませんでしたが、「顆粒状のだし」が家庭に登場し、「かつお節削り」という重労働から小学生を解放したのです。(ちなみにその頃は、かつお節そのものの方が顆粒状のだしより安価だったと記憶しています)

それでも「本枯節」を使う理由 それは香り

 話は変わりますが、Repro開発チームには、最高級の本枯節がたくさん在庫されています。展示会やイベント(コロナ以来だいぶ弊社の出展回数も減りましたが)では、Reproで作っただしの試飲をしていただくのが一番人気。正確な温度管理はもちろんですが、削りたてのかつお節でひいただしの香りは圧倒的です。
高級和食店でも、煮物などのだしは「削り節(最初から削ってあってビニールのパックに入っているアレ)」で作りますが、勝負どころの「お椀」の「吸い地」を張る時だけは、かつお節から削りたてのもので、だしをひいたりします。
節から削りたての香りは、言うならば新築のお家の床の間に通された時に感じる新しいヒノキの柱や、青い畳の香りのような鮮烈なすがすがしさです。それに比べると削り節パックを開けた時の香りは、新築から1年ぐらい立った感じ。
顆粒状のだしに至っては、あまり香りといったものは… です。

もう一つの理由 それは保存性の良さ

本枯節を使うもう一つのメリットは、その保存性の良さです。削り節の酸化スピードは強烈です。パックを開けて30分で風味は失われていきます。スーパーで売られている削り節パックは、おひたしにちょっとトッピングしたりするための5gとか7gのものを除くと、大抵が最小でも100gパック。これまた大量にだしをひく料理屋ならともかく一般家庭で、まったく酸化させずに使い切るのは、ほぼ不可能。
でも、適正な環境で保管した本枯節なら、いつでも削りたての鮮度を楽しむことができます。

かつお節削りは筋トレ。 絶滅危惧種です

 そんなメリットがあるのに、今や高級料理店を除きかつお節削りをしない理由は明白。まるでスポーツジムで思いダンベルを片手で持ってキックバックし上腕三頭筋を鍛える筋トレのような重労働だから。(よほど器用でないと片腕だけしか鍛えられません)
「世界で一番硬い食材」と言われるだけあり、慣れない人や腕力のない人だと、30gのかつお節を削るのに30分以上かかることも…
夏場は首に手ぬぐいを巻き、Tシャツ1枚でも汗ダラダラ。それを考えると昭和のお母さんたちの労働量はすごいものがあります。

伏高 本職用鰹節削器 77,000円(税込)

Repro開発チームには、築地場外で昔からかつお節屋さんとして有名な「伏高」さんの最高級かつお節削り器(よく略して「削り箱」と呼んだりしますが)があります。


いまや77,000円もしますが、カンナの切れ味も含め削り箱の良し悪しで、仕上がりも労働量も達成感も段違いです。一生物だと思えば、削り箱だけはケチらないことを全力でお勧めします。
そんな削り箱を使っても、時間と労力がかかるので高級和食店では、高性能な電動かつお節削りマシーンを導入して省力化と0.1mm単位でベストな削り具合(=薄さ)を追求していたり。
しかし業務用の電動かつお節削り機は、安いものでも20万円超。スペースも取りますし、重量もかなりあるので、一般家庭のキッチンで使うのはちょっと現実的ではないかもしれません。

こんぶ土居さんの画期的魔改造


 本枯節の山を見ながら「どうしたものかなあ…」と悩んでいる時に、偶然目に止まったのが100年以上続く大阪の昆布屋さん「こんぶ土居」の土居さんのブログ。白口浜・黒口浜などと呼ばれる北海道南部の真昆布の名産地で天然の良質な真昆布が採れなくなって、はや数年。そんな中で良質な真昆布を提供していただける数少ないお店です。

うちでも、たまに買わせていただいています。いつも良い真昆布をありがとうございます!
ということで、土居さんのブログをごらんください。


某国営放送の番組「魔改造の夜」。(wikipediaによれば「技術開発エンタメ番組」だそうですが)
一流メーカーの社員や一流理工系大学の学生が、本気で改造に取り組み、本気で泣いたり、歓喜したりするさまは、私も大ファンなのですが、土居さんもまるで「魔改造レベル」です。
土居さんのブログを読めば、このコラム記事を読む必要もないのですが(苦笑)、改めて土居さんの魔改造を簡単に説明しておきます。

魔改造電動かつお節削り器の作り方

愛工業 かつおぶし削り オカカ 22011  5,986円

 魔改造する元は、「愛工業 かつおぶし削り オカカ 22011」という手動のかつお節削り器。一般家庭には手頃なサイズです。amazonだと5,986円とお値段もお手頃。このままでもかなり便利な感じはするのですが…

まずこのハンドルを取り外します。ネジで止まっているだけなので簡単に取り外せます。

高ナット(M6サイズ) 355円

ここで事前に必要な部品が「高ナット(M6サイズ)」。amazonに売っているので事前に買っておきましょう。355円(税込)です。
この部品はつまり、内径がネジに、外側が六角になっており、電動ドライバーとオカカをジョイントさせるアダプターのような役割をするものですね。

指でくるくる回すだけでよいので、オカカのハンドルを付けていたネジに取り付けます。

京セラ(Kyocera) 旧リョービ 可変速 ドライバードリル FDD-1000 646050A  5,027円

そして遂に登場。電動ドライバーです。土居さんはブログで、リョービのドライバードリル「FDD-1000」という機種を勧めていましたが、どうもリョービさんが京セラさんに事業譲渡したようで、今は京セラの「FDD-1000」になっています。これもamazonで買えて、お値段は5,027円(税込)です。

近与(KONYO) SUN UP 六角軸ソケットセット S6-6.35 六角軸径:6.35mm 5点 1セット 1,292円

そしてまた事前にamazonで買っておく必要がある部品が「ソケットビット」。これの10mmと言うのが必要なのですが、セットでしか売っていませんでした。「ソケットビット」というとなんか難しく感じますが、簡単に言えばデフォルトで電動ドライバーの先についているプラスのドライバーをメスの六角レンチ(つまりソケットビット)に付け替えるものです。
ちなみに必要な部品はこれですべて。ご予算は合計12,900円。業務用機器を考えるとかなりお安く仕上がります。

ソケットビットを取り付けた電動ドライバー。ドライバー自体に専用のねじ回しが付いているので、プラスドライバーからの付け替えはとても簡単です。

最後に、この赤い部分と黒い部分の境目にあるリング。これはネジを締める時のトルク(力)調整をするラチェットリングなんですが、これを一番トルクが強い(=ラチェットが効かない)ところまで上げておく必要があります。つまりは本枯節は、それだけ硬いってことなんでしょうが。

そして遂に魔改造電動かつお節削り器の完成です。

そもそも「オカカ」は、こんな風にかつお節をセットし、ハンドルを回すと下部の円盤に取り付けられたカンナ刃が回転して削るという仕組みになっています。それを電動ドライバーで自動化したわけです。

魔改造電動かつお節削り器で削ってみる

それでは、さっそく魔改造の完成度をチェックしてみましょう。と、その前に「かつお節削りなんて見たこともない」という若い世代の方のために、削り箱で削っている動画からごらんください。

Repro開発チームのスタッフが展示会でかつお節を削っている様子です。本当は結構大変なはずなのに、常に笑顔を絶やさない、その心意気が素敵です。
そして次は「魔改造電動かつお節削り器」の動画を。

動画も「魔改造の夜」的な雰囲気を出してみました。(笑)
ごらんになっていかがですか?
まずは削り具合を見てみましょう。

こちらが、高級削り箱で削った本枯節です。その薄さといい、形状といい、なんとも美しいフォルムです。申し分ありません。

こちらが魔改造で削ったもの。
う〜ん。確かに削り箱で削ったのから比べると見劣りしますねえ。でも気合を入れて「渾身のお椀の吸い地を」、ということでもなければ、普段遣いとしては十分な仕上がりではないかと。お味噌汁や煮物なんかにはまったく問題ないでしょう。
そもそも30分以上かかる作業が3分ぐらいで終わってしまい、筋力もほぼ使わなくてよい、汗もかかない、これなら毎日 本枯節を削っても苦にならないと言うメリットは大き過ぎます。

魔改造の検討課題(1)太い本枯節だと…

まだ、魔改造マシーンで本枯節を削ったのは10回にも満たないので、すべてを把握しているわけではありませんが、今までに気付いた課題点を。

魔改造、もとえオカカで削ることができるのは、この写真の溝に入る部分で、その幅は約5.5cm。ちょっと立派なサイズの本枯節だと幅が入り切らないという事態が発生します。そうすると「血合いを抜きたい」などと言っていられず、色んな面を削って幅を狭くしながら削っていくことになります。

その結果、魔改造マシーンで削った本枯節は、今まで見たこともない造形を呈することになります。料理屋さんのように、最初から出刃包丁で血合いを削ってしまう、というのも手ですが、そのうち慣れてくれば血合いだけ外して削るコツを発見できるかもしれません。

魔改造の検討課題(2)一度魔改造で削ってしまうと…

なぜか不思議なことに、一度魔改造マシーンで削った面を、改めて削り箱で削ってみると…

なんだか本枯節とは思えない柔らかい感触で、前掲の写真のような薄くてひらひらの削りにならないんですよね。

さらに拡大して見てみると、厚みがあって、いわゆる「裸節(枯節のようにカビ付けをしないで出荷するかつお節で、その分含有する水分量が多く、削りやすい代わりに日持ちしない)」みたいになっています。
裸節は本枯節のような香りはないものの、削りやすいので普段遣いには便利なんですが、なんでそうなってしまうのでしょうか…
高速で回転するカンナ刃の摩擦で表面の温度が上がり、なんらかの熱変性が起きているのかもしれません。いずれにせよ、一度魔改造マシーンの手にかかってしまうと、あの芸術的なひらひらには戻れなくなってしまうのは難点です。(普段遣いに徹するというのであればなんら問題はないのですが)

魔改造かつお節で合わせだしを

こんな暮も押し詰まった時期に、こんな記事を書いているのも、そろそろお雑煮の準備をしたいから。今年は「魔改造かつお節」でだしを取ってお雑煮を作ることにします。
合わせだしのレシピは、これまでと同じです。
(1)昆布を60℃で1時間抽出する
(2)抽出し終えた昆布を取り出し、85℃に加熱
(3)85℃になったら加熱を止めてかつお節を投入
(4)デフォルトでは50秒でかつお節を漉して完成
Reproのレシピはこちらです。


さて結論から言えば、実際にだしを取ってお雑煮を作ってみましたが、魔改造マシーンでも十分美味しく仕上がりました。

Reproユーザーにとっては、年末年始はだしを取ったり、それでお雑煮を作ったり、何かとReproの出番が多い時期。Reproユーザーの和食屋さんなども、おせちの準備で12月中はReproがフル活動するそうです。
なので「今年はお雑煮はどうしようかな?」と思案されているユーザーさんへ向けて、明日は、連投で「関東風お雑煮(本当は我が家のお雑煮)」のレシピについてコラム記事を公開したいと思います。(間に合わなかったらごめんなさい。それからしょうゆ味ではないお雑煮を作りたい方もごめんなさい。)

最後に

そして最後に。
魔改造電動かつお節削り器を使えば、本枯節を節から削るのも、大した苦になりません。改めて、本当のかつお節の美味しさをもう一度味わってみませんか?
だって真昆布にしても、本枯節にしても今や絶滅危惧種的存在。いつまで味わえるのか分からない時代なんですから。

メルマガ購読


Reproに関する最新情報をいち早く知れるほか、Reproキッチンコラムのホットな記事もお届けいたします。ぜひご登録ください。