タイトル上の「かぼちゃの含め煮」の写真をよく見てください。「面取り」をしていませんが、煮崩れせず、きれいに「エッジ」が立っています。かぼちゃの煮物はクタクタに煮っころがされたのも美味しいんですが、たまには一流料亭の職人さんが丁寧に炊いたような「きれいな煮物」も作ってみたい。
「煮崩れする」=「必要以上に加熱をしている」なのではないか?と言う疑問からできたのがこのレシピです。
小さくて読みにくいのですが、このグラフ群は、「野菜の最適加熱時間の予測(1989)」という神戸女子大学の松裏容子先生、お茶の水女子大学の香西みどり先生らの論文から抜粋したものです。この論文では11種類の野菜を選んで、タイトル通り、野菜ごとに「何分煮るのがちょうど良いか?」ということを実験しています。グラフのY軸(縦軸)にある「0.32」とか「0.80」とかいった数字と点線は、ここまで柔らかくなると「食べごろ」というラインです。つまり、いろんな野菜を65℃、70℃、80℃、90℃、99.5℃の恒温槽に入れて、何分経ったら「食べごろラインを超えるか?」というのが、この実験です。
目次
野菜には固有の最低軟化温度がある
「じゃがいも」と「にんじん」を並べて見ると、グラフから色々なことが読み取れます。
じゃがいもの「0.80」のライン、にんじんの「0.76」のラインが「食べごろライン」ですから、じゃがいもを90℃で煮ても、いつまで経っても食べごろにはならないが、にんじんは90℃で煮ると、25分ぐらいで食べごろになるようです。
カレーを作っている時の実感としては、
「じゃがいもはすぐ煮崩れするけど、にんじんはなかなか柔らかくならない」
というかんじですが、このグラフを見る限り、本当は「じゃがいもは短時間で火が通るが、その温度は95℃以上の高温にしなければいけないのに対し、にんじんは長時間煮ないと火が通らないが、その温度は80℃から90℃の間と比較的低い温度でOK。」という意外な事実。
この実験は「最適加熱時間」を求めるのが目的ですが、副産物として「この野菜は最低○○℃で煮ないと柔らかくならない」という「最低軟化温度?」が、それぞれの野菜に存在することを教えています。
「実用的なかぼちゃの最低軟化温度」=91℃
火を入れれば入れるほど、素材の熱変性は進み、ともすれば栄養素やうまみのもとなどを破壊する可能性もあります。それは逆に考えると「最低軟化温度で加熱すれば、素材の風味や味を最大限活かした煮物を作ることができるはず」ということ。
上の2つのグラフは左が日本かぼちゃ(黒皮)、右が西洋かぼちゃ(えびす)のグラフです。分かるのはどちらも90℃前後で、食べごろの柔らかさに到達するということ。このギリギリの温度で静かに炊けば、最も素材の風味を残し、かつ煮崩れもしない きれいな煮物が作れるはず。
ということでRepro開発チームが実験した結果は、以下のとおりでした。
「実用的なかぼちゃの最低軟化温度」=91℃
かぼちゃの含め煮の材料はごらんの通りです。
坊っちゃんかぼちゃは、肉質が一般的な栗かぼちゃに似ていて、500〜600gのミニサイズなので、普通のご家庭でも使いやすい品種です。
また「基本の合わせだし」については、noteでも記事を掲載していますので、そちらをご参照ください。
糖化とペクチン硬化はトレードオフの関係
Repro開発チームのレシピ「かぼちゃの含め煮(RECIPE No. 00000014)」のマルチステップはこちらです。最初のステップ(ステップ01)は外部センサーで煮汁を60℃に温め、30分間保温することを意味しています。
このステップは、かぼちゃのでんぷんを糖に変える酵素「アミラーゼ」が活性化する温度帯に30分置くことにより、かぼちゃをより甘くしようとしています。
ですが正直言ってこのステップはまだ最終的な検証ができていません。アミラーゼがデンプンを糖に変えるためには、でんぷんが糊化する必要がありますが、その温度帯はこれよりちょっと高い65〜75℃、アミラーゼが失活する可能性が大です。かぼちゃは本当は何℃で何分加熱すると最も甘くなるのか、糖度計を片手に、どなたか実験してもらえないかな?と。(笑)
この60〜70℃帯という温度は、でんぷんを多く含む野菜(「いも」とか「かぼちゃ」とか「れんこん」とか)にとって、糖化を進める酵素の賦活温度帯であると同時に、「ペクチン硬化」という野菜が固くなってしまい、その後高温で加熱しても元に戻らなくなる現象を引き起こす温度帯でもあるのです。
このトレードオフの関係のため、なかなか糖化を極限まで追求した煮物を作ることは難しいのですが、「かぼちゃ」は、ほとんどペクチン硬化が現れない野菜のひとつ。
「究極の糖化」を実現する有望な候補です。
ぜひ、どなたかReproと糖度計で、「究極に甘いかぼちゃの煮物」にチャレンジを!
そして2つ目のステップ(ステップ02)が今回の本題、「最低軟化温度の91℃でかぼちゃを20分間静かに炊く」、という工程です。
さらに3つ目のステップ(ステップ03)は、「スキップボタンを押すまで待機」という工程で、きちんと火が通っているか味見して、火のとおりが足りない場合は追加加熱するためのステップです。
それでは、このレシピをアプリから本体に送信して、早速作っていきます。
包丁の先を使って、かぼちゃを半分に割ります。けがをしないよう注意しましょう。
スプーンなどで種とワタを取り除きます。
半分にしたかぼちゃを4等分にカットします。
皮をところどころ剥いていきます。
1片をさらに3等分ぐらいにカット。見栄えを良くしたい場合は、先の尖った部分なども落としてください。
仕上がりを良くしたい場合は、身の厚い部分を削いで約1.5cm厚に揃えましょう。
煮汁の調味料は、計量カップなどであらかじめ合わせておきます。ここではグラニュー糖を使っていますが、煮物にコクを出したい時には、三温糖などに変えてみてください。
具材に対してピッタリサイズの鍋があれば、煮物は半分成功
Reproにかぼちゃと煮汁を入れた鍋をセットします。
この画像、とっても大事です!
かぼちゃが重ならず、きれいに底に並んでいて鍋底の面積は、この量のかぼちゃに対して小さすぎもせず、大きすぎもせず。
はっきり言って、具材に対してピッタリサイズの鍋があれば、煮物は半分成功したも同然です。煮汁の量も具材に対し多すぎも少なすぎもせず、最も煮ムラ?が生じない、これがベストの状態なのです。
よく和食屋さんにヤットコ鍋と呼ばれる取っ手がない(というかヤットコで掴む)鍋がたくさんスタックされているのを見ませんか?あれは1寸(約3cm)刻みでサイズ展開されているので、どんな分量の煮物にもベストサイズを見つけることができます。プロが細かく鍋を使い分けるのは、それが煮物をうまく作るための必要条件だと分かっているから。
海外の製品で言えば、Repro開発チームが使っている「CRISTEL」のシリーズ。これは2cm刻みで14cm〜24cmまで6サイズ展開されています。
全サイズ買うと、かなりの値段になりますが、スタッカブルで場所を取らないし、一生モノと思えば安い買い物かと。ヨーロッパでは高品質な調理道具を母から娘へ、ということもよくあるそうです。
かぼちゃが煮汁から頭を出している場合は、いや頭を出していなくても、必ず落しぶた、アク取りシート(静かに炊くのでアクなんか出ませんが)、セパレート紙などを水面に落として、厳重な保温ケアをしましょう。
気化熱は思った以上に鍋の温度を下げています
外部センサーをセットしたら、さらに、鍋のふたをずらしてかけてスタートボタンを押します。
ここもReproを使う上で、とても重要なところです。
ふだん、ガス火やIHコンロで料理を作っていて気にもしないと思いますが、Reproを使っていると、「気化熱はバカにならない」ということに気づきます。
なべのふたを開けて、湯気を立てながら加熱していると、煮汁がどんどん蒸発していくわけですが、これによって、鍋の中の煮汁はあっという間に数℃も水温が下がってしまうのです。
これまでのレストラン・料理屋では「なべのふたをして煮るな!」と教わっていましたが、これは逆にガス火で連続加熱している状態でふたをしてしまうと、鍋の中の温度がどんどん上がってしまうからです。気化熱で冷ますことにより、鍋の中の温度上昇を少しでも減らそうとしていたわけです。
では「Reproの場合はどうか?」と言うと、ガス火の場合の逆です。
ふたを開ける→
気化熱で煮汁の温度が下がったことをセンサーが検知→
煮汁の温度を上げるために強く加熱する→
強く加熱した結果、鍋の中がぐつぐつしてしまう
という「ぐつぐつスパイラル」に入ってしまいます。
Reproをお持ちの方は、なべに水を入れて外部センサーをセットし、ふたをずらしてかけて
「外部センサー 水温ターゲット 98℃ スキップボタンを押すまで」
をシングルステップモードにセットしてスタートしてみてください。
沸点に近い98℃でも、ふたをずらしてかけていれば、ほとんど沸騰の泡は見られないぐらい静かです。さらになべの中の水の上にアク取りシートやセパレート紙をかければ、水面はさらに静かに。
でもそれが、ふたをいったん外すと、火力インジケーターが一気に上がり、急に水面が泡立ってくるはずです。
自動的に一定の温度をキープするReproでは、静かに煮物を炊きたい時には、できる限り保温ケアしてあげることが重要です。
アラームが鳴って60℃に達すると自動的に30分間60℃をキープして糖化を進めます。(前段でお話したように、本当はもっとベストな糖化の方法があるかも。ぜひとも究極の糖化にチャレンジしてレシピをアップしてください)
また、上の写真は撮影のためにふたを外しています。本当はふたをかけっぱなしにしています。
30分経つと、自動的に91℃に加熱してステップ02に移行します。アラームが鳴ったら20分間91℃をキープします。
はっきり言って、スタートボタンを押してから、このステップ02が終わるまで、料理を作る側は、何もすることはありません。
この写真も撮影のためにふたを外しているだけですので、本当はふたをかけっぱなしにしています。念のため。
加熱が足りない場合は追加加熱
アラームが鳴ってステップ03に入ったら、初めてふたを外して、竹串などでかぼちゃに火が入っているか確認します。万が一、火の通りが足りない場合には、アップダウンボタンを押してください。
「追加加熱」の選択肢が表示されるので、温度・追加加熱時間(もしくはスキップボタンを押すまで)を選択して、最後にスタートボタンを押せば、もう一度火を入れてくれます。追加加熱が終了するとまた同じステップ(ステップ03)に戻ってきますので、火の通りがOKだったらスキップボタンを押してください。全工程を終了します。
この写真など、エッジがバキバキ?に立っていますが、実際に食べてみると想像以上に柔らかいんです。なんか狐につままれたようなかんじです。
そう言えば、Reproをお使いいただいているこだわり系の某シェフが「エッジの立った海老芋」をInstagramにアップしていました。海老芋はさっきの論文で言うと「taro」に当たるのでしょうか。だとすると軟化最低温度は90〜91℃ぐらいと推測。
皆さんもReproを使って、さまざまな野菜の素材の風味あふれる軟化最低温度系レシピを開拓してください!
Repro公式サイト http://www.repro.jp/
Repro公式Facebook https://www.facebook.com/Repro.jp
Repro公式Instagram https://www.instagram.com/repro_official/