カブと聞いて、どんなイメージが浮かびますか? 白くて丸い、何となく地味な野菜と思われがちですが、実はカブには驚くべき多面性があります。年に二度、春と秋に旬を迎えるこの野菜は、季節ごとに異なる魅力を持っています。
本記事では、そんなカブの基本情報から、旬の時期、栄養価、さらには選び方と保存方法まで、カブについての知識を総合的にご紹介します。
カブがただの「白い野菜」ではなく、「旬」を最大限に活かした多彩な料理の主役になり得ることを、ぜひとも知っていただきたいと思います。
目次
カブの基本情報
カブは日本の食文化に深く根付いている野菜のひとつですが、その背景には多様な品種、栄養価、そして地域ごとの独特の料理が存在します。ここでは、カブの基本的な情報から、その歴史、品種の違い、そして日本各地で愛されるカブ料理まで、幅広くご紹介します。カブがどのようにして日本に伝わったのか、どのような栄養成分が含まれているのか、そして地域によってどのような料理に使われているのか。これらの疑問に答えることで、カブの魅力を再発見していただければと思います。それでは、まずはカブとは何か、その基本的な特徴から見ていきましょう。
そもそもカブとは?
カブはアブラナ科アブラナ属の植物であり、実はキャベツやチンゲン菜、白菜などの仲間です。原産地は中央アジアとされ、古代からアジア、ヨーロッパで栽培されています。日本には、おそらく中国経由で渡来したとされ、日本書紀にも記述があるほど古くから日本の食文化に根付いている野菜です。
形状は主に球形で、色は白が基本ですが、品種によっては紫やピンク、黄色などもあります。ちなみに白い部分は“実”ではなく“根(厳密には胚軸)”です。
また日本独自の品種も多く、現在は80種類以上のカブがあるとされています。各地域で長い間栽培されてきた結果、独特の風味や食感を持っています。
カブは、日本料理だけでなく、世界各地の料理にも用いられます。たとえば、韓国料理では「キムチ」の材料として、また、フランス料理では「ポトフ」などの煮込み料理に使用されます。さらに、葉の部分はカロテンを豊富に含んだ緑黄色野菜のため、捨てずに利用されることも多くあります。
カブは漬物や干し野菜などの保存食にできるため、古くから冬季の食糧として重宝されてきました。特に日本では「かぶらずし」や「千枚漬け」などがあり、これらは今でも郷土料理として作られています。
余談ですが、カブは漢字で「株」ではなく「蕪」と書きます。関西では「カブラ」とも呼ばれています。また、春の七草のひとつである「スズナ」もカブの別名です。
カブの旬は1年に2回ある
カブは年に2回、春と秋に旬を迎えます。
ここでは、春と秋のそれぞれの旬について、そして日本でよく見かける主要な品種について詳しく解説します。
春の旬
春のカブとは、具体的には3月から5月にかけてが時期とされています。春に収穫されるカブは成長スピードが早く、そのため比較的柔らかいものが多いです。
この特性を活かして加熱せずに生で食べることも多く、サラダや和え物、漬物などによく用いられます。
春のカブは、その柔らかさから煮物にする際も火の通りが早いという特徴があります。しかし、その柔らかさゆえに煮すぎると形が崩れやすい点には注意が必要です。
葉も新鮮で風味があります。たとえば「カブの葉のお浸し」や「カブの葉の和え物」もこの季節ならではの味わいが楽しめます。
秋の旬
秋にカブが旬を迎えるのは、10月から11月にかけてです。この時期に収穫されるカブは、冷涼な気候の中でじっくりと時間をかけて育つため、春に収穫されるカブと比べて甘みが強く、歯ごたえもしっかりとしています。この特性から、煮込み料理やポトフなどに使用すると、その甘みが一層引き立ちます。
また、この時期のカブは、その硬さから煮崩れしにくいという特徴もあります。葉が硬くなりがちですが、それでも栄養価は高く、特に鉄分やビタミンKが豊富です。
さまざまな品種のカブ
カブには多数の品種が存在し、それぞれが独自の特色と用途を持っています。ここでは例として、3品種を紹介します。
金町小カブ
関東周辺で最も一般的に見かける品種で、スーパーマーケットなどでよく販売されています。小ぶりで丸い形状が特徴で、食べやすさから多くの料理に用いられます。特に、その柔らかさから生食や煮物、漬物に適しています。
収穫時期:10月ごろ~3月ごろ
聖護院カブ
京野菜としても有名なこの品種は、大きくて扁平な形状が特徴です。独特の甘みと歯ごたえがあり、特に漬物にするとその風味が一層引き立ちます。
収穫時期:11月ごろ~2月ごろ
日野菜(ひのな)
日野菜の主な産地は滋賀県日野町です。日野町では、日野菜の栽培が盛んで、町の花にも指定されています。日野菜は、主に漬物として利用されます。
近年では、日野菜の認知度が向上し、漬物以外の料理にも利用されるようになってきています。天ぷらや炒め物、サラダなど、さまざまな料理に活用されています。
日野菜は、滋賀県の伝統野菜として、これからも多くの人に親しまれる野菜です。葉を使った「日野菜漬け」などの郷土料理でよく用いられます。
収穫時期:5月ごろ~6月ごろ
カブを大きく東西にわける「カブラライン」
じつはカブには、「カブラライン」と呼ばれる日本の東西を分ける線が存在します。愛知県、岐阜県、福井県を結ぶラインで、ちょうど関ケ原付近となります。この線を境に、カブの品種は大きく2つに分類されるとされています。
東日本に分布する品種は、ヨーロッパから伝わった西洋型です。葉が立ち、種が小さく、肉質が硬いのが特徴です。
西日本に分布する品種は、アジア原産の日本型です。葉が横に広がり、種が大きく、肉質が柔らかいのが特徴です。
カブの栄養価
カブは、見た目のシンプルさに反して、栄養価が非常に高い野菜です。特に、根と葉の両方に多くの有用な成分が含まれています。
ここでは、カブの根部と葉部の主要な栄養成分と、健康にどのように寄与するのか解説します。
根の部分の栄養成分とその効果
カブの根部には多くの栄養成分が含まれています。主な成分は以下のとおりです。
- エネルギー: 18kcal
- たんぱく質: 0.7g
- 脂質: 0.1g
- 炭水化物: 4.6g
- 食物繊維: 1.5g
- ナトリウム: 5mg
- カリウム: 280mg
- カルシウム: 24mg
- マグネシウム: 8mg
- リン: 28mg
- 鉄: 0.3mg
- ビタミンC: 19mg
- 葉酸: 48μg
※数値は根の部分の可食部100gあたり(生)のもの
ナトリウムは少なく、カリウムが豊富なため、高血圧の予防に有用です。また、カルシウムとマグネシウムは骨や歯の健康に寄与します。
葉の部分の営業成分とその効果
カブの葉部分は緑黄色野菜であり、根の部分とは異なる栄養成分と健康効果を持っています。
- エネルギー: 20kcal
- たんぱく質: 2.3g
- 脂質: 0.1g
- 炭水化物: 3.9g
- ナトリウム: 24mg
- カリウム: 330mg
- カルシウム: 250mg
- マグネシウム: 25mg
- 鉄: 2.1mg
- ビタミンA: 230μg(β−カロテン当量)
- ビタミンE: 3.1mg(α−トコフェロール)
- ビタミンK: 340μg
- ビタミンC: 82mg
※数値は葉の部分の可食部100gあたり(生)のもの
ビタミンKは、血液凝固に関与する重要なビタミンです。カブの葉には高量のビタミンK(340μg)が含まれており、血液の健康をサポートします。
また、ビタミンAも230μg含まれています。ビタミンAは、視力の維持や免疫機能に役立つとされています。
カブの選び方と保存方法
カブは日本料理に欠かせない食材の一つですが、その選び方と保存方法にはいくつかのコツがあります。新鮮なカブを選ぶためのポイントから、長期間美味しさを保つ保存方法まで、解説します。
新鮮なカブの選び方のポイント
新鮮なカブを選ぶ際には、いくつかのポイントがあります。まず、根部に注目しましょう。根にはツヤとハリがあるものが理想です。特に球型の品種を選ぶ場合、形がきれいな丸いものがおすすめです。
葉は緑が鮮やかで、みずみずしいものを選ぶと良いでしょう。葉がしおれている、または色褪せているものは新鮮でない可能性が高いです。
さらに、ヒゲ根の少ないものを選ぶのもポイントになります。ヒゲ根が多いということは、土壌の栄養分を根から十分に吸収できずたくさん伸ばした可能性があるためです。
保存のコツ
カブはそのまま保存すると劣化が早くなる可能性があります。特に、葉と根がつながっている状態で保存すると、葉が根から栄養を吸い取ってしまい、根の部分が早く劣化してしまいます。そこで、購入後は葉と根を切り離すことが一番のポイントです。
葉は湿らせたキッチンペーパーで包んでからポリ袋に入れ、冷蔵庫の野菜室で保存します。
根の部分も、湿らせたキッチンペーパーで包んだ後、ポリ袋に入れて冷蔵庫で保存することで長持ちします。
長期保存を考える場合は、カブを丸ごと冷凍する方法もあります。ただし、食感が多少変わる可能性があるので、解凍後は煮物やスープなど、食感があまり気にならない料理で使用すると良いでしょう。
京都「千枚漬け」だけじゃない 各地の郷土料理
カブは日本全国で栽培されており、その多様性は地域の郷土料理にも反映されています。特に京都の「千枚漬け」は全国的に有名ですが、それ以外にも各地で独自のカブ料理が存在します。
ここでは例として3つの郷土料理を紹介します。
日野菜漬け
日野菜漬け(ひのなづけ)は、滋賀県が主な伝承地域であり、滋賀県蒲生郡日野町が発祥とされています。この漬物は、滋賀県の伝統野菜「日野菜」を使っており、滋賀県選択無形民俗文化財「滋賀の食文化財」にも認定されています。
日野菜は葉側が紫色で、根に向かって白色になるのが特徴です。形状は細長く、長さは約30cm程度です。旬は主に10月から12月末までとされています。味は独特の風味と辛み、苦みがあります。
漬け方にはいくつかのバリエーションがあります。葉を刻み、短冊切りにした根と一緒に酢に漬ける「桜漬け」、葉付きのまま下漬けし、甘酢に漬け込む「えび漬け」、ぬかで漬けた「ひね漬け」などが存在します。
かぶらずし
かぶらずしは、富山県西部地域を中心に伝わる郷土料理です。この料理は、カブとブリ(またはサバ、サケ、マスなど)を主な食材として使用し、甘酒麹とにんじんも加えて発酵させます。
特に冬の正月料理として多くの家庭で楽しまれています。
富山県では、毎年10月下旬に重さ1kg以上にもなる大カブが収穫されます。この大カブは、寒さによって甘みが凝縮されているのが特徴です。
食べ方としては、カブは厚く皮をむき、中心の柔らかい部分を2センチほどの厚さに輪切りにします。その後、中心に切り目を入れて塩を振り、一晩置きます。サバは削ぎ切りにして、塩で漬けたカブに挟みます。その後、甘酒麹、にんじん、ゆず、しょうがの千切りを交互に並べ、蓋をして重石をのせ、約2週間熟成させます。
近年は手作りする家庭が減少していますが、多くのメーカーが冬に「かぶらずし」を販売しています。また、年末年始には贈答品としても人気があり、若い世代にもこの郷土の味が伝わっています。便利な「かぶらずし」の素も販売されており、家庭で簡単に作ることができます。
カブ雑煮
カブ雑煮は、特に山口県でお正月料理として親しまれています。この郷土料理は、丸餅、カブ、三ツ葉を主な具材として使用し、シンプルながらも深い味わいがあります。焼かずに餅を直接すまし汁に入れるため、少しとろみがつくのが特徴です。また、細く切ったするめを軽く結んで入れると、香りと見た目が一層引き立ちます。
山口県内では、地域や家庭によってお雑煮の作り方や具材が多少異なるものの、基本的には丸餅を醤油のすまし汁仕立てにするお雑煮が一般的です。特に萩市を中心に、県内全域でこの「カブ雑煮」が食されています。
食べ方としては、煮干しで出汁を取り、カブとするめを煮込んでから醤油で味を整えます。その後、丸餅を加えてやわらかくなるまで煮るのが基本です。この際、出汁を煮立たせると餅が溶けてしまうので注意が必要です。最後に、三ツ葉をトッピングして完成です。阿武町では、カブの葉も入れることがあるとされています。
この料理は一般的に家庭で食されており、学校給食でもお正月料理として提供されることがあります。これにより、次世代にもこの美味しい郷土料理がしっかりと伝えられています。
Reproを使ったカブのレシピ
Reproにはカブを使ったソテーのレシピがあります。
これは 「ペクチン硬化」という現象をうまく利用した料理です。 ペクチン硬化は一般的にはあまり知られていませんが、知っておくと料理するときに役立つので、こちらのレシピもぜひ見てみてください。