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「祇園坊柿(ぎおんぼうがき)」との出会いは突然に
こんにちは。Reproキッチンスタッフです。バイヤーさんがセレクトにこだわった高級スーパーが新しく近くにできたと聞き、先日足を運んでみました。そこで、知らない品種の柿と出会いました。名前は「祇園坊柿」。高級干し柿として販売されていました。
「祇園、さては京都の高級品か…?」と思い手にとったところ、産地は広島県。もともと干し柿や干し芋といった素材の良さを活かしたお茶請けが好きなこともあり、すぐにカゴへ入れました。
まず「祇園坊柿」とはどういう柿なのか?
産地については、先ほどふれた通り広島県です。とくに県北西部に位置する安芸太田町では全域で盛んに栽培されていて、特産品となっているようです。栽培面積では全国の9割以上を占めているとか。
柿そのものは大きく、種はありません。
江戸時代にあった祇園坊という寺の住職が発見した品種で、大きな実がお坊さんの頭に似ていることから、「祇園坊柿」と名づけられたといわれています。
祇園坊柿は、気候や気温に対して敏感とてもデリケートな品種で、生育条件にあう土地が他にほとんどないことから「幻の柿」とされています。収穫した実も痛みやすいため、すぐに渋抜きをして食べるか、干す必要があります。豊作と不作が1年ごとに繰り返されるそうで、農家さんの苦労を想像すると胸が痛みます。
また、高級干し柿で知られている富有柿(ふゆうがき)と同じように、「柿の王様」と呼ばれることも多いようです。王様がふたり存在するのが不思議だったので調べてみたところ、富有柿は甘柿、祇園坊柿は渋柿でした。二大巨頭というところでしょうか。それなら納得ですね…!
「甘柿」と「渋柿」の違いについて
柿に甘柿と渋柿があることは、皆さんもご存じでしょう。柿の渋みの正体は、ポリフェノールの一種であるタンニン。甘柿も渋柿も最初は渋い果実ですが、収穫期に近くなり熟してくると、甘柿は、タンニンが自然と水溶性から不溶性に変化してやわらかくなり、渋味がなくなります。
一方で渋柿は、収穫期になってもタンニンの性質が変わらないので、人間の手で渋抜きをしたり干し柿にすることで、ようやく食べられる甘さになるのです。
甘柿と渋柿にとどまらない深い(?)お話
甘柿と渋柿の違いについてかんたんに紹介しましたが、さらに「完全甘柿」「不完全甘柿」、「完全渋柿」「不完全渋柿」と枝分かれしていることはあまり知られていないかもしれません。これらの特徴と、有名な柿の品種を見ていきましょう。
甘柿のなかで、種が入らなくても渋みが自然と抜ける品種を「完全甘柿」といい、甘みが強いのが特徴です。とにかく甘い柿がお好きな方は、のちほど挙げるこれらの品種をおすすめします。
「不完全甘柿」は、種が多く入ることで渋みが抜けます。種から出るアセトアルデヒドがタンニンを不溶化させ、果肉全体の渋みが減っていき、果肉にゴマのような斑点(褐斑)が現れはじめると食べごろです。日本最古の柿といわれる「禅寺丸」という柿が有名です。
渋柿も2種類あり、種からアセトアルデヒドが発生せず、種が入っても渋みが抜けない品種を「完全渋柿」といい、種からアセトアルデヒドが出て、種の周りだけ渋みが抜ける品種を「不完全渋柿」と呼びます。
渋柿はどちらも渋抜きをしないと人間が食べられる甘さにはなりません。
有名な柿の品種
ではここで、甘柿と渋柿あわせて、いくつかの品種をピックアップしてみましょう。これでもう、売り場で迷うことはありません。
まずは、甘さが特徴の完全甘柿からご紹介します。
甘柿の王様「富有柿」
「富有柿」は甘柿の代表的な品種として知られていて、「甘柿の最高峰」だとか「柿の王様」といったキャッチフレーズをよく目にします。岐阜県で誕生した品種で、柿の生産量の60%を占めています。甘さだけでなく果肉のやわらかさも相まって、今や人気の柿となりました。
富有柿と人気を競う「次郎柿(治郎柿)」
富有柿と同じくらい有名な「次郎柿(治郎柿)」は静岡県が原産です。見た目は四角ばった形で、硬めの実が特徴です。種はほとんど入っていません。明治時代に発生した火災で焼け残った株から新芽が成長しておいしい柿が実ったといわれています。
甘柿と渋柿が混在!?「筆柿」
「筆柿(ふでがき)」は、愛知県で江戸時代から農家の庭先で栽培されてきた歴史があり、1980年代には全国に出荷されるようになりました。筆柿のおもしろいところは、「不完全甘柿」とされていますが、1本の木のなかに甘柿と渋柿が混在しているところです。種子が十分に入ると甘柿になり、種が少ないと渋みが残るので、出荷するための選別には光センサーを用いています。産地である愛知県では「珍宝柿(ちんぽうがき)」という名でも親しまれています。
100年以上の歴史!代表的な干し柿「市田柿」
干し柿といえば、よく目にする品種は「市田柿(いちだがき)」かもしれません。重さはほかの柿に比べると小さく、卵のようなふっくらとした形をしています。完全渋柿なので干し柿に適していて、ほとんどが干し柿として加工・流通されます。
この市田柿は南信州を代表する特産品で、現在の長野県下伊那郡高森町の市田地域で栽培されていたことからその名がつけられました。2016年には地理的表示(GI)保護制度に登録されています。朝晩の寒暖差がおいしい市田柿をつくるといわれています。
柿の旬は秋から冬。干せばオールシーズン?
一般的な柿の旬は、9~12月ごろの秋から冬にかけてといわれています。ただ、年をまたいで春に近づいても、売り場にはまだ干し柿という形でたくさんの柿を見かけることができます。干し柿のシーズンはだいたい3月までですが、「干す」という加工の工程を挟むおかけで、一年を通して柿を食べられるようになっているのは柿好きにとっては嬉しいですね。
新鮮な柿をむいて果肉をそのまま食すのも、高級な干し柿をお茶請けにして食すのも、それぞれ良さがあります。
個人的ではありますが、最近では、レストランで柿の果肉を使ったソースを使った創作料理などにもよく出会うような気がします。さまざまな形で柿を食してみてくださいね!
干し柿の表面の白い粉は何?
ところで、市田柿でも、祇園坊柿でも、高級な干し柿の表面には白い粉がまぶされているように見えますよね。これはぶどう糖が結晶化したものです。つまり、甘い証拠。
生産過程で柿の皮をむいて乾燥させたものをよく揉むと、中から水分が出てきます。 すると同時に、果実の中にある糖分が外に滲み出て結晶になるというわけです。
当然ではありますが、粉が多いほど糖度が高いので、薄く均一に全体が粉に覆われているものを選ぶとよいでしょう。
高級干し柿は贈答用にも。柿は縁起がいい?
柿は、「嘉来(かき)」という語呂合わせから、縁起のいい果物といわれています。おめでたいことがやってくる、という意味ですね。幸せやお金を「かき集める」という意味で、お正月飾りやおせち料理にも使われています。
高級干し柿はよくギフトとしても選ばれますが、こういった意味をもっているならば、いっそう贈りたくなるものですね。
干し柿の作り方
執筆しながら改めて柿を「干す」という加工法のありがたさを感じていますが、最近では自宅のベランダで干し柿をつくる人も多いとか。
歴史的にみて干し柿がつくられるようになったのは、柿を干すことで水分が蒸発して日持ちするようになり、栄養価が高いまま保存できるという理由からでした。厳しい冬や食糧不足の際に、人々にとっての重要なエネルギー源となった干し柿。その後、乾燥技術の進化とともに、日本の伝統的なお菓子としてもすっかり定着しました。
ここで、干し柿の作り方を簡単に説明しましょう。
・硬すぎず熟しすぎていない柿を選びます
・柿を軽く水で洗いながら、表面の汚れを取り除きます
※皮をむくかどうかはお好みで。皮を残しておくと風味が豊かになります
・食べやすい大きさに切り分けます
※丸ごと干すためにはよく乾燥させる必要があるので、吊るす必要があります。それなりのスペースの軒先や屋根のあるバルコニーが必要なので、作る分量やご自宅の環境に適したほうを選んでください。
・ぬれた布や紙に並べて覆い、柿を均一に乾燥させます(丸ごと干す場合は吊るします)
・屋外、室内ともに「風通しのよい場所」「日当たりのよい場所」を選んで干します
・カビは大敵です。干すときは柿同士がくっつかないように均一に乾燥させましょう
・手でさわって、しっかりとした弾力が感じられるようになったら完成です
※干す場所や個数にもよりますが、数週間かかることもあるので、忍耐は大事ですね…。
「祇園坊柿」に出会えたらラッキー!
柿について調べてしまったら長くなってしまいました。
今回購入した祇園坊柿は、日本茶のお茶請けとしていただきました。
甘柿である柿の王様・富有柿のおいしさは知っているつもりでいますが、渋柿の王様・祇園坊柿もまた違った美味しさで、口にいれた瞬間に思わず目を閉じてしまいました。
甘みが詰まった果肉がしっかり凝縮されているのですが、繊維っぽさが感じられるためか、噛めば噛むほどに味わいがジュッジュッと出てきます。
収量が少ないため、出会える機会も少ない幻の柿・祇園坊柿。ぜひ自分へのご褒美に、大切な人への贈り物に、探してみてくださいね!