春の息吹と共に訪れる、たけのこの旬。多くの人々がその独特の香りと歯応え、味わいに魅了されます。今回は、たけのこという素材をより美味しい料理へと昇華させるために必要な知識を深堀りしてみましょう。品種別の旬の時期、選び方や保存方法、アク抜きのコツなどのほか、たけのこが持つ豊富な栄養素や、健康への効果、日本各地で愛される郷土料理まで紹介します。
たけのこについてよく知ることで、その美味しさを最大限に引き出し、春の訪れを心ゆくまで楽しみましょう。
目次
たけのこを基本から知る
料理において素材の魅力を最大限に活かすためには、その基本から理解することが不可欠です。まずは、植物としてのたけのこを知るために、成長の過程、収穫のタイミングなどを確認してみましょう。
たけのこが竹の若芽であることは皆さんもご存じのはず。お住まいの地域によって竹が身近な植物かどうかは異なるでしょうが、あの見るからに硬そうな竹と、我々が食べているたけのこがもともとは同じものだと考えると、なんだか不思議で、その生態についてもっと知りたくなってきませんか?
どこまでが「たけのこ」で、どこからが「竹」?
筆者の前に、野生のたけのこが現れた!
タケは、イネ科タケ亜科に属する多年生植物で、木のように硬くなるのが特徴です。「タケ亜科」にはタケ類とササ類が含まれており、日本ではタケ類だけでも20〜50種ほどあるのではないかといわれています。
タケとササは一見似ていますが、成長に伴って皮が自然と落ちるのがタケで、成長しても皮が残っているのがササです。
たけのこが「たけのこ」と呼ばれるのは、地上に芽を出した直後から高さが約20〜30センチ程度の段階までです。この時期の外皮は硬く、内部は柔らかいので、食用に適しています。これ以上成長すると内部が木質化し始め、「竹」としての特性を帯びていきます。
タケは繁殖力が強くて成長速度がとても速いため、温度や湿度などの条件が整えば1日に数十センチ程度も伸びるので、食用としての価値がある期間はとても短いです。地域によって異なりますが、3〜5月が摘採期、つまりたけのこの旬です。旬が過ぎ、半年も経つと立派な若竹に成長します。
タケには細胞分裂して成長する「成長点」と呼ばれる部分がすべての節にあることも、成長が早い理由です。一般の樹木だとこれは根や茎の先にしかありません。
この記事を書いているとき、筆者がたまたま行った神社の敷地内に竹林があり、参道の脇にたけのこが生えているのを見つけました!背丈はだいたい30センチほどだったので、たけのこがギリギリまだ「たけのこ」とされる、貴重な最後の姿だったかもしれません。
たけのこの旬 いつからいつまで?
食用たけのこの代表的な品種は、モウソウチク(孟宗竹)、マダケ(真竹)、ハチク(淡竹)の3つです。モウソウチクは江戸時代に中国から渡ってきたものが株分けされて広まりましたが、後者の2つは古くから日本に自生していたと考えられています。国内で食用として流通しているのは、モウソウチクのたけのこです。直径は20センチメートルにもなる大型種で、タケとしては国内最大といわれます。
品種による旬の違い
モウソウチク(孟宗竹)は、主に春に収穫されます。特に旬は3月から5月にかけてで、この期間には柔らかくて味わい深いたけのこが収穫されます。大きさと味の良さから、たけのこ料理に最適とされています。
マダケ(真竹)は、モウソウチクよりも少し遅れて旬を迎える品種です。マダケのたけのこは4月から6月にかけて収穫され、見た目は細身で皮には黒いまだら模様があるのが特徴です。あくや苦味が強いため、市場に出回ることは多くありません。独特の香りと味が煮物や汁物に適しています。
ハチク(淡竹)は、遅い時期に旬を迎える品種で、5月から7月にかけて収穫されます。赤茶色の薄い皮に包まれた少し細身のたけのこで。とても柔らかく、やや甘味があり苦みも少ないので、天ぷらやおひたしにすると食感と味わいをより楽しめます。
食材として出会うことはほとんどないかもしれませんが、他にもいくつか珍しいたけのこを紹介しておきましょう。まずは主に高知県で栽培されるシホウチク(四方竹)。全国でも珍しく10月から11月上旬という秋に収穫されるたけのこです。
そして中国で最もおいしいタケノコと言われているのが「ライチク(雷竹)」です。こちらも旬は夏の終わりから秋にかけてと遅めで、ジューシーで爽やかな味わいが特徴です。
新鮮なたけのこを見分けるコツ
食材のおいしさを最大限に引き出すためには、新鮮なものを見分ける目が必要不可欠ですが、特にたけのこは鮮度が命。「湯を沸かしてから掘れ」という言葉もあるほどです。ここでは美味しいたけのこを見極めるための重要なポイントをご紹介します。
新鮮なたけのこの特徴
まずは見た目。形はまっすぐで、細めのものより、ずんぐりしたものがよいです。外皮は色が薄めで光沢があるものを選びましょう。外皮が乾燥してしまっているものや、色が黄ばんでいるものは、鮮度が落ちている可能性が高いため避けた方がよいでしょう。また、たけのこの先端部分は鮮度の良し悪しを判断する上で重要なポイントです。新鮮なものは先端がしっかりと閉じており、ピンと張っていることが多いです。根元の丸いぶつぶつは次第に黒くなってくるので、えんじ色に近いものを選びましょう。
次に、手触りです。新鮮なたけのこを手に取ると、外皮は硬く感じられるものの、全体としてはしっとりとしていて水分を多く含んでいることがわかります。適度な弾力があるかどうかも確認しましょう。弾力がなく柔らかすぎるものは、古くなっている可能性があります。
次はカットされて売られているたけのこの選び方です。この場合、断面が重要な判断材料となります。断面が白くみずみずしく、繊維が細かいものを選びましょう。断面が黄色がかっていたり、乾燥していたりするものは、鮮度が落ちている証拠です。
最後に、香りも新鮮なたけのこを選ぶ際の大切なポイントです。新鮮なたけのこからは、独特のさわやかな香りが漂います。強すぎず適度に感じられる香りは、たけのこの鮮度を示す重要な指標となります。
以上のポイントを押さえることで、新鮮なたけのこを見極めることができます。見た目、手触り、断面、香りの4つの要素を総合的に判断し、最高の状態のたけのこを選ぶことで、春の訪れを感じさせる美味しいたけのこ料理を堪能することができるでしょう。
内側のツブツブは?
たけのこの内側にある、白いぶつぶつしたものを気にしたことはありませんか?この白い点々は、チロシンと呼ばれる非必須アミノ酸の結晶です。チロシン自体はたけのこの成分の一部であり、タンパク質の消化過程で自然に形成されます。たけのこを茹でる際にタンパク質が熱で分解されると、チロシンが結晶化して、目に見える白い粒や点として現れるわけです。単なる化学反応の結果で、決してたけのこが古くなったからなどではありません。
また、これらのチロシン結晶は、たけのこが持つ栄養価に影響は与えません。そのため、食品としての安全性や栄養面での懸念は無用です。そしてもちろん、たけのこの鮮度や品質にもまったく関係ありませんので安心してください。
たけのこの保存方法 〜長く楽しむために〜
たけのこに欠かせない「アク抜き」
たけのこ料理を美味しく仕上げるためには、ご存じのとおりアク抜きという作業が欠かせません。たけのこのアクは苦味や渋味の原因となり、これを適切に取り除くことで、本来の甘みや旨味を引き出すことができます。Reproをお使いの方々は手慣れている作業かと思いますが、料理初心者の方向けに、アク抜きの手順と重要なポイントを簡単に説明します。
アク抜きの手順とポイント
たけのこの下処理: まず、たけのこの外側の硬い皮を数枚むきます。土や汚れは水で洗い流しましょう。このときに先端部分の硬い部分を切り落としておくと、アク抜きがスムーズに進みます。
米ぬかを用意: アク抜きには、米ぬかを用いると効果的です。米ぬかには、たけのこの苦味や渋味を和らげる働きがあるからです。米のとぎ汁でも代用可能なので、ぜひ試してみてくださいね。
たけのこを茹でる: 大きめの鍋にたけのこがしっかりと水に浸かるくらいの水を入れ、たけのこと米ぬか(または米のとぎ汁)、そしてひとつまみの塩を加えます。
火にかける: 鍋を火にかけ、沸騰したら弱火にしてゆっくりと煮ます。たけのこの大きさにもよりますが、だいたい1〜2時間が目安です。途中でアクが出てくるので、取り除きましょう。
冷まして完成: 途中で串がスッと通るかどうかを試し、柔らかくなっていれば茹でごろです。煮終えたら、たけのこを鍋の中で冷ますのがポイントです。ここで冷ますことで、たけのこの中まで味が染み込み、より美味しくなります。
たけのこのアク抜きは少し手間がかかりますが、この工程をしっかりと行うことで、たけのこの持つ自然な甘みや旨味を存分に引き出すことができます。アク抜きを通じて、たけのこの美味しさを最大限に楽しみましょう。
「21世紀式アク抜き」もある
一般的に、たけのこのアク抜きといえば前述のように米ぬかを使うことが多いかと思いますが、最近では米ぬかを使わずに水で茹でるだけで手早くアク抜きをする人も増えています。
料理家・作家の樋口直哉さんはこれを「21世紀式アク抜き」と表現していますが、アクの主成分であるホモゲンチジン酸やシュウ酸は水溶性なので、たっぷりの水で茹でればその濃度を薄めることができるというわけです。
アク抜きに米ぬかを使うことでたけのこに米ぬかの風味がつくため、米ぬか派の方もいると思いますが、なるべく手間をかけたくない方や、たけのこ本来の味を楽しみたいという方には水で茹でるというアク抜きの方法もおすすめです。
たけのこを長く楽しむための保存方法
冷蔵保存のコツ
新鮮なたけのこは、適切に処理して冷蔵庫で保存することで、数日間から1週間程度は鮮度を保つことができます。
外皮の処理: たけのこの外皮は湿気を含むと腐りやすくなるため、使う直前まで外皮は剥かないでおくとよいでしょう。また、外皮を剥く場合は、使う分だけにします。
水気を拭き取る: 外皮を剥いたら、表面の水気をキッチンペーパーなどで優しく拭き取ります。水気を残しておくと、腐りやすくなる原因になります。
新聞紙で包む: 水気を拭き取ったたけのこは、新聞紙に包んでからビニール袋に入れるとよいでしょう。新聞紙が余分な湿気を吸収し、たけのこの鮮度を保ってくれます。
冷蔵庫で保存: ビニール袋に入れたたけのこを冷蔵庫の野菜室で保存します。
冷凍保存のコツ
下処理: 冷凍する前に、茹でてアク抜きを行います。アク抜きの方法は前述のとおりです。
冷ましてから切る: アク抜きしたたけのこを冷ましてから、使いやすい大きさにカットします。小さくしておくことで解凍時の使い勝手がよくなります。
水分を拭き取る: カットしたたけのこは、キッチンペーパーなどで表面の水分をしっかりと拭き取ります。水分が残っていると冷凍焼けの原因となり、せっかくの香りが台無しになってしまいます。
冷凍用保存袋に入れる: たけのこを冷凍用の保存袋に入れ、空気を抜いて密封します。空気を抜くことも、冷凍焼けを防ぐポイントのひとつです。最近では家庭用真空パック機も安価で売られているのでおすすめです。
冷凍庫で保存: 保存袋に入れたたけのこを冷凍庫に入れます。この方法で、約1ヶ月から3ヶ月程度は鮮度を保つことができます。
たけのこの栄養と健康効果
続いては、たけのこに含まれる主要な栄養成分を見てみましょう。日々の食生活にたけのこを取り入れることで、その栄養素が私たちの体にどのように作用し、どのような健康効果を期待できるのでしょうか?
たけのこに含まれる栄養素
まず知っておきたいのは、たけのこには不溶性食物繊維が豊富に含まれていること。これは腸内環境を整えることで知られており、便秘の予防や解消に効果的です。また、腸内の善玉菌を増やすことで、免疫力の向上にもつながるといわれています。低カロリーでもあるため、ダイエット中の方におすすめの食材です。
ただ、不溶性食物繊維は大量に摂ると腸の働きが活発になりすぎて、下痢や腹痛を引き起こすこともあるので注意しましょう。
ビタミンについてはどうでしょうか?たけのこに含まれているビタミンB群はエネルギーの代謝を助ける効果があるため、疲労回復の助けとなるといわれています。
さらに、ビタミンCもたけのこの重要な栄養素のひとつです。ビタミンCはコラーゲンの生成を助けるため、肌の健康を保ってくれるほか、風邪の予防にも効果があるといわれています。
ビタミンCと同じくビタミンEにも抗酸化作用があるので、生活習慣病の予防も期待できます。
また、たけのこにはカリウムも多く含まれています。カリウムは体内の余分なナトリウムを排出する作用があり、高血圧の予防や、むくみの解消にも効果的といわれています。
そして、カルシウム。骨や歯の健康維持に必要なミネラルです。骨密度を高めることで、骨粗しょう症の予防にも役立ちます。
これらの栄養素を効果的に摂取するためには、たけのこを適切に調理することが大切です。アク抜きを行うことで、たけのこの苦味や渋味を和らげるだけでなく、栄養素の吸収を助けることができます。また、たけのこはサラダや炒め物、煮物など、さまざまな料理に使うことができるため、日常の食事に取り入れやすいのもうれしいですね。
たけのこを使った郷土料理
日本全国で愛されている、たけのこ料理。「たけのこ山椒煮」や「たけのこの木の芽和え」など、どこかで食されたことのある方も多いはず。もともと前者は島根県、後者は京都府の郷土料理だということはご存じでしたか?
たけのこ山椒煮
たけのこ山椒煮は、古くから島根県で親しまれてきた料理です。東部にある島田地区という土地にはかつてよりモウソウチク(孟宗竹)が成長しやすい粘土質の赤土が広がっていたことから、自然とたけのこ農家が増え、「島田たけのこ」という特産品が生まれるまでになりました。たけのこと山椒は、ともに昔から地元で手軽に入手することができたため、家庭で作られる伝統的な料理となったわけです。
味付けは、かつお出汁、薄口醤油、酒、みりん。辛党の方には、アクセントに実山椒を加えるのがおすすめです。山椒煮を一度こしらえてしまえば、お茶漬けや混ぜごはんにも活用できるので、作り置きするのもいいですね。
たけのこの木の芽和え
続いては、たけのこの木の芽和えをご紹介します。ここでいう「木の芽」は山椒の新芽を指すことが多いです。こちらは京都府、主に山城地域の伝統的な郷土料理です。
調理方法は、木の芽とほうれん草を、白味噌、砂糖などといっしょにすり、茹でたたけのこと和えるだけ。卵黄を入れると味にコクが出ますが、日持ちしなくなるため、保存期間によって調整しましょう。最後に柚子の皮を細かく刻んで加えると、上品な香りと味わいに仕上がります。
ところで皆さんは「京たけのこ」を耳にしたことはありますか?身が白くて柔らかく、えぐみが少ないたけのこです。これも同じモウソウチク(孟宗竹)ですが、親竹の先を止める「芯止め」、わらを畑一面に敷き詰める「敷きわら」、たけのこの皮が酸化するのを防ぐため土を盛る「土入れ」という「京都式軟化栽培法」が用いられています。さらに水捌けのよい土壌、日当たりの良い自然条件によって、特別な味わいの「京たけのこ」となるのです。
いかがでしたか?さまざまな料理に応用できる食材、たけのこ。調理にあたっては少し手間がかかるかもしれませんが、あの食感や香りは、他の食材では代えがたいものがありますよね。毎年、春の訪れとともに新鮮な旬のたけのこを味わってみてくださいね。