今回は鍋で炊飯する実験です
炊飯=ごはんを炊くことって、簡単そうで実は奥が深そうな…
普段、炊飯器任せにしているのに、キャンプに行って飯盒(はんごう)で炊いてみたら、どうにか炊けちゃった、とかいう一方で、「炊飯器で炊くより鍋や土鍋で炊いた方が美味しそうだけど、ちょっと自信がないな」とか…
今回は、炊飯器を使わず、鍋でごはんを炊く時の炊飯の「科学的なコツ?」について実験結果を踏まえてお話します。
炊飯のバイブル「NEW 調理と理論」
今から57年前、昭和42年(1967年)に第一版が出版された
「NEW 調理と理論」(同文書院刊)
当時の調理学の重鎮の先生方が著した名著です。もちろん内容は炊飯だけでなく、様々な代表的な料理を網羅しており、半世紀以上経った今も大学などで調理学の教科書として活躍しています。
この教科書の「炊飯」の項目から抜粋させていただいた炊飯の過程は上記グラフの通り。
① 温度上昇期
② 沸騰期
③ 蒸し煮期
④ 蒸らし期
炊飯を上の4つの過程に分けて説明しています。この過程の区分は、現在でも十分通用する「炊飯という調理の特徴」を捉えていますが、すでに57年の歳月が経過して、調理環境も道具も変化しています。
そもそも当時は大家族がほとんどで、ガス炊飯器や大きな鍋で「一升(10合)炊き」なんて当たり前でしたが、現在は少子高齢化社会。家族の少人数化で「2〜3合炊き(一気にたくさん作って冷凍しておく、なんて場合は5合炊きもあるでしょうが)」が普通になってきています。
5合炊きぐらいになると、炊飯器もけっこうキッチンで場所を取るという、「住環境上の事情」もありますしね。
現代の「炊飯」は、当時の大先生から見れば、きっと「少量炊き」に分類されるものなのでしょう。
教科書(NEW 調理と理論)における炊飯のポイント
この教科書には、示唆に富むさまざまな情報が書かれていますが、炊飯時の加熱において特に重要なポイントは以下の3つです。
- (1)98℃以上の温度に20分間おく
- (2)温度上昇期は10分前後が良い
- (3)沸騰期の始めの5分間程度は火を強めにする
(1)98℃以上の温度に20分間おく
(1)は、ほぼ「炊飯の定義」とも言える根源的な前提です。小中学校のキャンプ教室で、たき火にかけた飯盒炊爨(はんごうすいさん)でも、なんとかごはんが炊けているのは、みんなで薪を燃やして、ワイワイはしゃぎながら飯盒(はんごう)を火の上にぶら下げているうちに、いつのまにかこの定義の通り、98℃以上の温度に20分間(もしくはそれ以上)になったからです。
しかし一方で、これは炊飯が炊飯として成り立つ「最低限の定義」なので、情報量はあまり多くない、と言うか当たり前のことを言っています。
そもそも炊飯は「研いだ米と水をグツグツ煮る」という行為ですから、鍋内の米の温度を測っていたら、水分がほとんどなくならない限り、その温度は沸点=100℃近くで変わらないのは当たり前。
しかし実際には、小中学校のキャンプ以外、皆さん途中で火加減しているわけですから、何かは変わっているはずです。
そして火加減について最も敏感に反応するのは「鍋底の温度」です。米の温度は、あくまでも鍋底の温度変化の結果ですから、実験するなら「鍋底の温度」により注意を払うべきでしょう。
(2)温度上昇期は10分前後が良い
これも、実はちょっと疑っています。現在のガスコンロやIHコンロで、常温の水で浸漬させた2〜3合の米を加熱したら、ほんの3〜4分ぐらいで沸点近くに到達します。
教科書には、加熱速度が早すぎると米の中心まで吸水が進まず、「芯のある飯になりやすい」と書いてありますが、2〜3合炊きで、この「①温度上昇期が短い」ために、芯が残ったと感じた経験は一度もありません。
毎日のように土鍋ごはんを炊いている和食の料理人でも、その様子を見ていると、ガスコンロに土鍋をかけてから、グツグツ煮立つまではせいぜい7〜8分ぐらい。この「温度上昇期の時間は10分前後」というポイントも後ほど実験してみます。
(3)沸騰機の始めの5分間程度は火を強めにする
教科書には、
「沸騰後の始めの5分程度は火を強めにすると糊化が充分に進み、食味の良い飯になる(原文ママ)」
とありますが、これを真に受けて、現代の火力の強いIHコンロを使い、2〜3合炊きで5分間グツグツ煮たら、間違いなく水分がかなり減って、乾いたパサパサのごはんができてしまいます。いまどきの世の中の多くのレシピにも、
「沸騰したらすぐに弱火に落とす」
と書かれています。このあたりも実験で確認していきましょう。
Reproの炊飯レシピで実験してみる
現在、Repro開発チームが公開している「炊飯レシピ」は、主に以下の5つです。(kakugamaのレシピは、鍋の素材が特殊なので、今回は割愛します)
ちなみにこの5つのレシピは、実際に調理して、試行錯誤した結果うまく出来たものをレシピ化したもので、作る前から理論的な何かの法則を考慮・想定したものではありません。
また2合と3合のレシピがありますが、いずれの実験も、
2合=米300g 洗米後の米と水の合計量=720g
3合=米450g 洗米後の米と水の合計量=1080g
浸漬時間=30分
に統一しています。
炊飯2合(Staub)#1
これはStaubの炊飯専用鍋「Staub ラ・ココット DE GOHAN M」(素材は鋳鉄ホーロー)を使用したレシピで、Staubの取扱説明書に記載された炊き方をReproでほぼ再現したシンプルなものです。(蒸し煮期と蒸らし期の時間を10分間→9分間に短縮し、蒸らし期の温度降下を緩やかにするため極弱火で加熱しながら蒸らしていますが)
STEP01 沸騰レベル3.0(中強火相当)で一気に常温から沸騰させます=温度上昇期
STEP02 沸騰したらすぐに沸騰レベル0.0(弱火相当)で9分間=蒸し煮期
STEP03 「蒸らし」は9分間。温度の下がるスピードを緩やかにするため、沸騰レベル-1.9(極弱火相当)でわずかに保温しています=蒸らし期
このレシピは、教科書にある「沸騰期」をほぼなくした状態で炊き上げたものですが、特別に「食味が落ちた」と感じたことはありません。
鋳鉄の鍋らしい粒立ちの良いパラッとした仕上がりになります。丼ものなど、ごはんの上に何かをかける系の料理に向いています。
レシピの詳細はこちらをごらんください。
炊飯2合(Staub)#2
これはStaubのトリセツ通りだった#1のやや改良版です。
STEP01 60℃で3分間加熱します=温度上昇期①
STEP02 沸騰レベル3.0(中強火相当)で一気に60℃から沸騰させます=温度上昇期②
STEP03 沸騰したらすぐに沸騰レベル0.0(弱火相当)で9分間=蒸し煮期
STEP04 「蒸らし」は9分間、温度の下がるスピードを緩やかにするため、沸騰レベル-1.9(極弱火相当)でわずかに保温しています=蒸らし期
教科書で言う温度上昇期に、60℃で3分間キープする「温度上昇の踊り場?」を作ることで、教科書にならって温度上昇期の速度を遅らせています。
これにより、#1では常温から沸騰までが、約4分30秒だったのが、約7〜8分に延びます。ただ仕上がりは#1とあまり変わりはないように感じるのですが…
レシピの詳細はこちらをごらんください。
普通の鍋で炊飯(2合)
これは、アルミ・ステンレス7層構造(クラッド)の「ジオ・プロダクト両手鍋18cm」で炊飯したレシピです。基本的な構造は、上の「炊飯2合(Staub)#2」と変わっておらず、沸騰レベルだけが鍋に合わせて変更されています。
STEP01 60℃で3分間加熱します=温度上昇期①
STEP02 沸騰レベル2.0(中強火相当)で一気に常温から沸騰させます=温度上昇期②
STEP03 沸騰したらすぐに沸騰レベル-1.0(弱火相当)で9分間=蒸し煮期
STEP04 「蒸らし」は9分間。温度の下がるスピードを緩やかにするため、沸騰レベル-2.9(極弱火相当)でわずかに保温しています=蒸らし期
このレシピ通りに作った場合は、パラッとしているわけでも、しっとりしているわけでもない標準的な仕上がりになります。
レシピの詳細はこちらをごらんください。
普通の鍋で炊飯(3合)
これは、アルミ・ステンレス5層構造(クラッド)の「ビタクラフトコロラド両手鍋20cm」で炊飯した3合炊きのレシピです。
STEP01 60℃で4分間加熱します=温度上昇期①
STEP02 沸騰レベル2.0(中強火相当)で一気に常温から沸騰させます=温度上昇期②
STEP03 沸騰したらすぐに沸騰レベル-1.5(弱火相当)で9分間=蒸し煮期
STEP04 「蒸らし」は9分間。温度の下がるスピードを緩やかにするため、沸騰レベル-3.3(極弱火相当)でわずかに保温しています=蒸らし期
この鍋は材質的に、これまでの鍋より温まりやすく冷めやすいので、60℃の「温度上昇の踊り場」を4分と「ジオ・プロダクト両手鍋18cm」より1分長くしています。
それでもSTEP02に入ると、Reproの沸騰判定温度=97℃に行き着く前に、かなりグツグツになってしまうので次のステップへスキップする必要があります。このため、いわゆる実際の「温度上昇期」の時間は、教科書通りの10分までは届きません。材質的な影響もあるのか、このレシピ通りに作った場合は、けっこうしっとりめな仕上がりになります。
レシピの詳細はこちらをごらんください。
釜浅のごはん釜(炊飯3合)
これは南部鉄器の羽釜を使った「釜浅のごはん釜(炊飯3合)」で炊飯した3合炊きのレシピです。
STEP01 沸騰レベル0.0で8分間加熱します=温度上昇期
STEP02 沸騰レベル3.0(中強火相当)で1分間加熱します=沸騰期
STEP03 沸騰レベル-1.0(弱火相当)で10分間=蒸し煮期
STEP04 「蒸らし」は10分間。温度の下がるスピードを緩やかにするため、沸騰レベル-3.0(極弱火相当)でわずかに保温しています=蒸らし期
このレシピは、最初にちょっとしたコツが必要ですが、教科書に最も近い構造になっており、わずか1分間ですが沸騰期が設定されています。沸騰期がレシピ通りの1分間なら、しっとりめな仕上がりに、沸騰期を2分間にすると鉄の鍋らしいパラッとした仕上がりに調整することができます。
レシピの詳細はこちらをごらんください。
炊飯実験の結果
実験は、それぞれのレシピについて、鍋内側の鍋底と、Reproの本体センサーが接している鍋外側の鍋底(=本体センサーが検知した温度)を、炊飯しながら測定しています。
炊飯2合(Staub)#1・#2の実験結果
炊飯2合(Staub)#1と#2は、温度上昇期に、教科書の「10分前後で沸騰がベスト」に合わせるために、60℃で「温度上昇の踊り場」を作っているか否か?だけの違いで、スタッフでの官能テストでは、ほとんど変わりがなかったので、#1の結果だけを掲載します。
青いラインは、鍋の内側鍋底に貼り付けた温度センサーの結果、オレンジ色のラインは鍋の外側の鍋底、正確に言うとReproの本体センサーが検知している温度変化のグラフです。教科書では10分前後あるべき「温度上昇期」が4分47秒と短く、「沸騰期」はほぼありませんが、パラッとした仕上がりではあるものの、芯があるわけではなく、粒立ちもよくて、鰻屋さんあたりで蒲焼きのごはんに使うと喜ばれそうな出来でした。
それよりも、注目すべきポイントは「蒸し煮期での温度変化」です。次第に米が水分を吸収することで、沸点により抑えられていた鍋底の温度が緩やかに上昇していきますが、ある一定以上水分が吸収されると、急速に鍋底の温度が上昇していきます。
この急上昇フェーズを仮に「高温期」と命名しておきますが、125℃以上になる高温期が今回の場合は、「蒸し煮期」の終盤と「蒸らし期」の冒頭で、合計3分02秒あり、最高温度は146℃近くに達しています。
普通の鍋で炊飯(2合)の実験結果
ジオ・プロダクト両手鍋18cmでの2合炊きは、60℃の加熱時間調整用の踊り場を作っているので、温度上昇期が8分56秒と、「炊飯2合(Staub)#1」の2倍に延びています。
温度上昇期の途中で鍋底の温度が下がっているのは、「60℃の踊り場」の時間です。
(鍋底の温度は、温度を上げていくフェーズでは、目標温度より遥かに高い温度になりますが、目標温度に達して保温するフェーズになると、目標温度に近い温度(このグラフでは60℃)で保温するようになります。)
ただStaubの場合と共通することは、このグラフでも蒸し煮期の最後の方に、鍋底の温度が125℃を超える3分08秒の「高温期」があり、鍋底の最高温度は136.1℃に達していることです。
Reproでは「空焚き防止」のため、各鍋ごとに本体センサーで検知した温度がそれぞれの鍋の特性に合わせ、各プロファイルに指定された温度以上に上がらないようリミッターがかけられています。高温期途中の波状の波形は、その温度上限リミッターが作動していることを示しています。(この鍋の場合の上限温度=140℃)
こうしたリミッターがない、通常のIHコンロであれば、最高温度はさらに上がっていたはずです。
ちなみに、この鍋での炊きあがりは、パラッともしっとりともしておらず、最も標準的な仕上がりとなっていました。
普通の鍋で炊飯(3合)の実験結果
ビタクラフト コロラド両手鍋20cmでの3合炊きは、この鍋の材質が、今回の実験に使用した他の鍋と比較して温まりやすく冷めやすいため、温度上昇期における「加熱速度の踊り場」を、他より1分長い60℃・4分に設定しています。このため温度上昇期が教科書どおりの「10分」に近い、9分21秒まで延びています。
この実験でも共通するのは、鍋底の温度が125℃以上になる「高温期」が存在し、3分54秒続いています。しかし高温期の時間が長い一方で、鍋の材質が他より放熱しやすいこともあるのか、仕上がり具合は、今回の実験中、最もしっとりとしていました。
釜浅のごはん釜(炊飯3合)の実験結果
最も教科書通りの加熱方法に近い釜浅のごはん釜での3合炊きレシピです。1分間と短いながらも「沸騰期」があることが他のレシピと特に異なる点です。
「蒸し煮期」の終わりから「蒸らし期」の始まりにかけて、鍋底の温度が125℃以上に急上昇する「高温期」が3分48秒あり、最高温度は150.7℃に達していました。
鍋で炊飯を成功させる条件
(1)125℃以上の高温期を3〜4分間持続させる
今回の実験で、炊飯に成功したレシピの最大の共通点は、すべて蒸し煮期の最終局面から蒸らし期の冒頭にかけて、125℃以上に急激に温度が上がる「高温期が3〜4分続いている」ことです。ちなみにこの高温期における最高温度は130℃台なかば以上が望ましい感じです。
教科書では蒸し煮期について「10〜15分」と記載されていましたが、米の糊化が完全に進む(=芯のない美味しいごはんが炊ける)ために最も重要なのは、高温期が適正な時間維持されることなのではないでしょうか。
高温期が短すぎても芯があったり、糊化が不完全なごはんになってしまいますし、長過ぎれば、おこげが入りすぎたり、パサパサなごはんが炊けてしまいます。
今回の実験で、実際にStaubで、蒸し煮期を元レシピの9分間→7分間に短縮し、高温期に入る前に「蒸らし期」に移行させてみましたが、微妙に芯が残り、美味しくないごはんが炊けてしまいました。
蒸し煮期を9分にするか、10分にするか、それとももっと長く取るか、それは「高温期を適正な時間維持できるか?」からの逆算の結果でしかないと言えます。
(2)「温度上昇期=10分前後」は必須ではないし 沸騰期も必ずしも重要ではない
「炊飯2合(Staub)#1」の実験結果を見ても、温度上昇期が4分半だとしても、さほど仕上がりの食味に影響はありませんでした。また釜浅のごはん釜でのレシピ以外は、すべて「沸騰期」を設定していませんが、これも食味に大きな影響を与えたとは言い難いです。
逆に2〜3合炊きの場合、長い沸騰期を取ることは水分を蒸発させ過ぎるリスクとなりかねません。
好みの炊き具合にするにはどうすればよいか?
では、ごはん炊き名人のように、好みの炊き具合を自由自在に操る方法はあるのでしょうか?
「パラッとしてる」とか「しっとり仕上がった」の本当の意味
好みの炊き具合にするという問題を解決するためには、まず「炊き具合」自体を客観的に定義すべきです。これまで仕上がりについて「パラッとしてる」とか「しっとりしてる」とか感覚的な表現で、さらっと書いてきましたが、本当は定量的に定義できそうです。
ここからは、もちろん適正な高温期を経過して、芯はなく、糊化が進み、最低限 美味しく炊けているというのは前提での話しです。
パラッと炊けている =元の米の重量:炊きあがりの米に含まれる水の重量=1:1.1〜1.2
普通に炊けている =元の米の重量:炊きあがりの米に含まれる水の重量=1:1.2〜1.3
しっとりと炊けている =元の米の重量: 炊きあがりの米に含まれる水の重量=1:1.3以上
例えば、2合の米は300gです。これを洗米すると水を含んで360gぐらいになります。この状態で同量の水を加えて炊飯するので、2合炊く時の元の洗米と水の総重量は720gになります。水を含まない米は300gですから、炊き始めの時点で水の総量(米に含まれている水も、含まれていない水も合わせて)は420gです。つまり炊き始めの時点では、
米の重量:水の重量=1:1.4
になっています。これが、1:1.1近くまで水分が蒸発するとかなりパラッとした仕上がりに、1:1.3ぐらいだとしっとりした仕上がりになるわけです。言い換えれば炊く前に鍋ごと(ふたも含めて)キッチンスケールに乗せて総重量を測り、炊き終わりの総重量をもう一度測ってみると、
【2合炊きの場合】
パラッとしている=約90g近く減っている
普通の炊きあがり=約60g近く減っている
しっとりしている=約30g近く減っている
【3合炊きの場合】
パラッとしている=約135g近く減っている
普通の炊きあがり=約90g近く減っている
しっとりしている=約45g近く減っている
となります。ちなみに今回のレシピだと、
炊飯2合(Staub)#1 =1:1.14(けっこうパラッと炊けています)
普通の鍋で炊飯(2合) =1:1.21 (極めて標準的な炊き具合です)
普通の鍋で炊飯(3合) =1:1.30(けっこうしっとり炊けています)
釜浅のごはん釜(3合) =1:1.31(けっこうしっとり炊けています)
と、なっています。
パラッと炊けるレシピを「しっとり」に仕上げる方法
蒸し煮期の時間を短くしてしまうと「高温期」の継続時間に影響してしまうので、普通に考えれば、蒸し煮期の火力自体を、ほんの少し弱くすれば良いのでは?と思いがちですが、実際にやってみると…
やってみたのは「炊飯2合(Staub)#2」で、蒸し煮期の沸騰レベル(=火力)を+0.0から-0.3に下げただけです。Reproにおける沸騰レベルの0.1は、IHの出力に換算すると、わずか20W。つまり20W x 3=60W下げただけで、「炊飯2合(Staub)#1」で3分02秒あった「高温期」が、わずか34秒に減ってしまいました。最高温度も130℃を超えません。
当然ながら美味しくないです。米:水=1:1.14だったのが、米:水=1:1.30に水分比率は増えましたが…
沸騰レベルを0.1だけ下げれば良かったのかもしれませんが、普通のIHコンロで「20Wだけ下げる」なんて細かい刻みはないでしょうし、ましてやガスコンロを使って手作業で火加減するなら、人力ではほぼムリな世界です。
微妙な炊き具合を火加減で調節するのは、現実的ではないと分かったので、この場合の正解は素直に「水を増やして炊く」です。
これは「炊飯2合(Staub)#2」で、水を30ml増やして、総量750gで炊いたグラフです。
高温期の継続時間が3分には少し足りない2分32秒ですが、火加減を弱くした前の実験での継続時間がわずか34秒だったことを考えると、約2分延びています。
高温期の最高温度も127.3℃→142.1℃に15℃近く上昇しています。
そして米:水の重量比は、元の「1:1.14」から「1:1.34」に大幅に上昇しています。
写真では、なかなか表現しづらいのですが、「1:1.34」になると、結構にしっとりしています。高温期の継続時間が2分32秒だったことも考えると、増やす水の量は20mlで十分だったのかもしれませんね。
いずれにせよ、お鍋でごはんを炊く時(もしかしたら炊飯器でも同じかもしれませんが)は、たかが「10ml」の水の量でも、炊き具合に変化が生じるので、米の量も水の量もかなりきちんと計量する必要がありそうです。
そして、もう一つのしっとりさせる方法は、最後の「蒸らし期」を途中で中断する方法です。
茶懐石などで、蒸し煮期を終えた瞬間に「煮えばなでございます」とお茶碗に少しだけ盛り付けられて出されるアレです。
実験のグラフで見たとおり、多くの高温期は、「蒸し煮期の終盤と蒸らし期の冒頭」にまたがっているので、蒸らし期に入った瞬間に出される本当の「煮えばな」は、微妙なアルデンテ感があります。
しかし蒸らし期に入って2分ほど経てば、高温期を脱して糊化は米の芯まで進んでいるはず。そこからは余分な水分を蒸発させるだけの過程なので、安心して中断できます。
この方法なんかは、炊飯開始前に鍋丸ごとの総重量を測っておけば、ふたを開けなくてもキッチンスケールに乗せてみるだけで、ピッタリの仕上がり具合が予想できます。(炊きあがりの鍋は熱いので、キッチンスケールに鍋敷きを敷いて計量してください。プラスチック製のスケールだと表面が溶ける惨事が起きたりします。ご注意を!)
しっとり炊けるレシピを「パラッと」させる方法
これは逆に、蒸し煮期と蒸らし期の時間を延ばしてみてください。今回の実験で言えば、9分間→10分間から試してみるのが良いでしょう。この場合も鍋の総重量の変化を確認すれば、客観的に判断できます。
また、「釜浅のごはん釜(炊飯3合)」のように、沸騰期があるレシピならば、沸騰期の時間を延ばすのが、最も仕上がりに効果があります。
ちなみに、このレシピでは沸騰期が1分に設定されていますが、これを2分にすると、沸騰期1分の場合 米の重量:水の重量=1:1.31 だったのが、1:1.2を割り込んで鉄釜らしいパラッとした仕上がりに がぜん変わります。
沸騰期は糊化を進めるとともに、最も効率的に水分を調節できるという意味もあります。沸騰期の時間を変えなくても、単に「ふたを開けたまま1分間沸騰させる」という方法でも効果があるかもしれません。
最後に
沸騰レベルの話
この記事の冒頭で、これまでの実験に使ったレシピは、トライ・アンド・エラー的に結果として、うまく炊飯できた5つのものを採用しており、始めになんらかの理論的な裏付けや仮説があって作られたものではありません、と説明してきました。だから、
炊飯2合(Staub)#1・#2 蒸し煮期=沸騰レベル+0.0 蒸らし期=沸騰レベル-1.9
普通の鍋で炊飯(2合) 蒸し煮期=沸騰レベル-1.0 蒸らし期=沸騰レベル-2.9
普通の鍋で炊飯(3合) 蒸し煮期=沸騰レベル-1.5 蒸らし期=沸騰レベル-3.3
釜浅のごはん釜(炊飯3合)蒸し煮期=沸騰レベル-1.0 蒸らし期=沸騰レベル-3.0
と、各レシピとも蒸し煮期や蒸らし期の沸騰レベルはまちまちです。沸点に極めて近い温度で加熱する「沸騰アクション」は、通常の加熱と違い、温度がほぼ同じ(つまりは約100℃)になってしまうので、温度で火力の区別をすることはできません。
でも実際には火加減によって「グツグツ具合」は違いますよね?
だから違う鍋でもグツグツ具合をできるだけ共有できるように(つまりはレシピの共有化のためです)、Reproではそれぞれの鍋製品ごとに、
「微沸騰する火力を沸騰基準火力=沸騰レベル+0.0とする」
としており、それぞれの鍋により異なった火力が「沸騰レベル+0.0」と定められてプロファイルに記述されています。
例えば、
「釜浅のごはん釜」の沸騰基準火力=640Wです。
「ビタクラフト コロラド両手鍋20cm」の沸騰基準火力=700Wです。
Reproユーザーの方であれば、セッティングモード>鍋プロファイル管理でお使いの鍋を選択してから、レシピを作成・修正するために沸騰レベルの選択を行えば、
というように、沸騰レベルの右に、実際の出力=W(ワット)数が表示されます。
これは偶然?それとも必然?本当はみんなほとんど同じレシピ
この実際の出力(W数)で、さっきのレシピを置き換えてみると、
炊飯2合(Staub)#1・#2 蒸し煮期=420W 蒸らし期=40W
普通の鍋で炊飯(2合) 蒸し煮期=420W 蒸らし期=40W
普通の鍋で炊飯(3合) 蒸し煮期=400W 蒸らし期=40W
釜浅のごはん釜(炊飯3合)蒸し煮期=440W 蒸らし期=40W
なんと実際の出力(火力)でみると、5つのレシピの蒸し煮期と蒸らし期は2合炊きであろうが、3合炊きであろうが、ほとんど同じ火力のレシピだったのです。
これは偶然?それとも必然?
今回のコラム記事の始めの方で、「米の温度は、あくまでも鍋底の温度変化の結果」と書きましたが、実は鍋底の温度も「結果」でしかなく、炊飯の根幹を決定しているのは、「鍋に加える熱エネルギー(熱量)」と言うのが正確な表現です。
レシピ「普通の鍋で炊飯(3合)」が、しっとり炊けるのは、本当は火力が20W少なめだからなのかもしれません。つまりは蒸し煮期の沸騰レベルを-1.5→-1.4に変更してあげるのが正解なのかも。
レシピ「釜浅のごはん釜(炊飯3合)」も、蒸し煮期の沸騰レベルを-1.0→-1.1に下げて、代わりに沸騰期の加熱時間を2分に延長するのが正解なのかもしれません。
(これらはまた改めて検証し、必要があればレシピを改良します)
なので、Reproユーザーで、今回実験で使った鍋以外の鍋で炊飯する場合は、最初にセッティングモード>鍋プロファイル管理で、お使いになる鍋を選択してから、レシピの作成・修正をして、ご自身の鍋が 蒸し煮期=420W前後 蒸らし期=40Wになる沸騰レベルを選択してから、トライ・アンド・エラーされるのをお勧めします。
そしてReproではないIHコンロをお使いの場合でも、IHコイルの出力性能にそこまで製品差はないでしょうから(制御性能は値段に比して格段に違いますが)、もし細かく火力を選択できる製品ならば、420Wと40Wから試してみてください。
そして最後に。
仕上がりを気になさるなら、炊飯する時に「鍋ごとの総重量を測っておく」というのは客観的な仕上がりチェックにだいぶ有用です。今回の実験を経て、筆者もこれからは習慣化しようと思っています。(笑)
【重要な補足】
もし、Reproユーザーで、このコラム記事をごらんになってご自身でも「お鍋での炊飯」を試してみようという方がいらっしゃいましたら、まずは最新のプログラムアップデート(20240419-1844)をお願いします。(温度上限リミッターの不具合に関する修正が含まれているからです)
プログラムアップデートのやり方についての詳細は下の画面をタップしてください。
また念のため、ご使用になられる鍋のプロファイルも再送・上書きしてください。鍋プロファイルも日々、再検証により改良が続けられていますので、定期的にアプリから上書き送信することをお勧めします。