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「メヂカそば吟魚」が最速で百名店に
Reproユーザーとして以前にコラムで紹介させていただいた東京都日野市・多摩モノレール万願寺駅近くのラーメン店「メヂカそば吟魚」。
最初に訪問した時は、「スープが全部ダメになった」と臨時休業。その事の顛末は、コラム記事「ラーメンと水の硬度とイワシの減少とReproと」をごらんになっていただければ。
この東京郊外の住宅地にポツンとあるラーメン店、昨年(2023年)4月に、現在の店主 野間章暢さんがお店を引き継いでから、なんと8ヶ月足らずという最速で食べログの百名店(ラーメン部門)に選出され、全国ランキングも東京ランキングも10位前後という、ものすごい急成長ぶりを見せています。
急成長はReproのおかげ… と自慢したいところだけど
Repro公式サイトのコラムなので、「この急成長ぶりはReproのおかげ」と胸を張って自慢したいところですが、それだけで全国のラーメン店のトップクラスに入るわけもなく(もちろんReproもある部分は寄与しているはずですが)、今回は定休日に再訪して、その秘密を探ってきました。
人気ラーメン店は休みの日に何をしているのか?そこに急成長の秘密はあるのか?
店主 野間さんのインタビューがあまりに興味深かったので、つい力が入って「プロフェッショナル 仕事の流儀」風な動画を作ってしまいました。(苦笑)
これからラーメン店を開業しようかと思っている人も、思っていない人も、「美味しいラーメンを極めていく」という行為の本質が見えてくるような気がするこの動画をじっくりごらんください。
人気ラーメン店の休日ー急成長の秘密ー
トーマス・ケラーを連想させるオープンなキャラクター
動画をごらんになっていかがでしたか?
あの有名なアニメ映画「レミーのおいしいレストラン」で主人公のねずみレミーのモーションキャプチャーのモデルにもなった、北米の、いや世界的にも有名な三つ星シェフ「トーマス・ケラー」。
テレビ番組にも出演し、惜しげもなく自分のスペシャリテのレシピを公開するオープンなスタンスでも有名ですが、野間さんのラーメンに向き合う姿勢を見ると、ちょっとトーマス・ケラーを連想させます。
トーマス・ケラーは西海岸ナパ・バレーの「フレンチランドリー」と東海岸ニューヨークの「パ・セ」と2つの三つ星レストランを同時に運営しています。きっとトーマス・ケラーはスタッフに対してルセットを明確に言語化し、定量化できる能力に長けているのでしょう。そうでなければ、「あたかもトーマス・ケラー本人が違う場所に2人いるようにレストランの味を作る」ことはできないはずです。
野間さんの、もったいぶらず自身のレシピを多くの人に教えることをいとわないオープンな態度。そして複雑な工程を言語化・定量化できる能力、それはまさにこれからの料理人の重要な資質だと感じました。
類まれなる実験家
野間さんのもう一つの特筆すべき資質は、「類まれなる実験家」だと言うことです。インタビューの中に出てきた「冷蔵庫の温度を1℃刻みで変えてみたり…」というくだり、あれは鶏ハム(鶏チャーシュー)をブライニングして一晩寝かせる時の冷蔵庫の温度の話です。(なんかこれもトーマス・ケラーつながりな感じですが)
ブライニングについて語る時、そのブライン液の濃度や、塩だけなのか砂糖も加えるのか、その割合は…といったことに目がいきがちで、その後は、「冷蔵庫で◯◯時間寝かせる」というだけで終わってしまうこともしばしば。
しかし、本来は鶏肉のタンパク質を塩が分解しつつ味が入っていく過程は、本当は何℃が良いのか?は気にしてみる必要がある要素です。だって塩や砂糖が溶けている水の分子の動きがどれだけ活発か?は温度によって異なるわけですから。
衛生面を気にしなければ温度が高いほど反応は進みやすいわけですが、「一晩寝かせる」となると常温に置いておくわけにはいきません。
業務用冷蔵庫はかなり低温にすることができます。他の食材も入っているでしょう。
とすると、その条件の中で、衛生面と反応速度のトレードオフの関係を勘案しつつ冷蔵庫の温度を決める必要があるわけです。
野間さんが作った鶏ハムを実際にいただきましたが、お世辞抜きにこれまで食べた中で最もジューシーに仕上がっていました。(そしてもちろんきちんと火も入っています)
ちなみに、ブライニングなどに関して(それ以外のことについても)野間さんが調理科学的知識に長けているわけではありません。
だとしても、彼は莫大な数の組み合わせを一つ一つ実験し、唯一の正解を導き出す情熱を持ち合わせています。
誰でもラーメン店を開くことはできる。しかし…
野間さんは、ラーメン修行の経験がまったくなくても一流ラーメン店になることは可能であることを身を以て示しています。
これは、これからラーメン店を開こうとする方には「希望の光」だと言えます。
なにせ経験のない素人でも、トップクラスになれる可能性があるわけですから。
ただ、ここで正直に言いましょう。野間さんは毎日睡眠時間4時間で、休みなく実験を繰り返し、その結果を実際の営業時間にフィードバックし続けています。
お世辞にも楽な仕事とは言えません。
しかし「それでもなお…」と思える情熱を持った人こそが頂点に立つ資格を得ることができる、と感じさせる1日でした。