リプコピとバターチキン

「リプコピ」って

Reproは、そもそも「Reproduce」=「再現する」の略です。
つまり定量的に定義されたレシピ(◯◯℃で△△分加熱するとか)ならば、何度でも同じように再現できる機器ということです。
では元が、定量的に定義されていないレシピだったらどうするの?
普通のガスコンロを使って、火加減は弱火とか中火とか強火とかで作っていたレシピをReproに移植しようと思ったら…
そんな時は、舌コピで味付けを再現したり、耳コピで音楽を再現したりするのと同様に、
「あの人が作っているアレって本当は何℃で加熱していたんだろう…」
と考えながらRepro開発チームでは、よく「リプコピ」をしています。
今回は、料理家の樋口直哉さんがyoutubeに動画を公開している「世界的人気の絶品バターチキン」を例にリプコピのコツについて説明させていただきます。

そもそも「バターチキン」って

バターチキンと言ってもカレーじゃありません。最初にこの料理にお目にかかったのは数年前、今は移転してしまった奥渋谷の小さなイタリアン・レストランでした。
バターたっぷりに焼かれた鶏むね肉は、ちょっと味付けがしょっぱかったけれど、なんともたまらない美味しさが印象的で、塩味が強いなあと思いつつも何回か食べに行ってしまった記憶があります。

バターチキンは鶏むね肉のバターソテー(鶏バター)

そして樋口さんの動画を見て、その料理がイタリア・フィレンツェの食堂発祥の「バターチキン」=鶏むね肉のバターソテー(鶏バター)だったことを知りました。勉強になります。
ということで、まずは樋口さんの動画を見ていただいて、それをReproに移植する「リプコピ」をしてみます。

この動画を見ると、加熱前の下ごしらえの概要は以下のとおりです。

(1)鶏むね肉(260〜300g)の皮をきれいに伸ばし、2つにカットする。
(2)カットした肉の厚い方を鍋などの底で叩いて薄くし、厚みを均一にする。
(3)30分ほど室温に置き、常温に戻す。
(4)塩を打つ。有塩バターの時は小さじ1/4。
(5)小麦粉をまぶす。

ここまでは理解した上で、加熱上の大切なポイントを。

ゆっくり加熱することが大事

樋口さんによれば、この料理のポイントはゆっくり加熱して、大量のバターで茹でるように炒めることだそうです。
なので厚手のフライパンを使っていますし、バターはその重量の20%ぐらいが水分なので、水分が蒸発しきるまでは、ゆっくり温度が上がっていきます。樋口さんの動画には、通常のガスコンロで作る場合のさまざまなTipsが詰め込まれています。
そんな思惑を踏まえた上で、早速「リプコピ」をしていきます。

冷たいフライパンにバターを入れる→空のフライパンを加熱

【樋口さんの場合】
冷たいフライパンにバターを入れてから火をかける。
【Reproの場合】
空のフライパンをReproに置き加熱をスタートする。

先ほども言ったようにバターは20%の水分を含んでいるので、樋口さんのやり方はフライパンの温度をゆっくり上げていくために理にかなった方法です。
一方Reproの場合は、空のフライパンを加熱しても、設定温度以上にどんどん温度が上がっていくことはありませんから、空のフライパンで加熱をスタートしてもOKです。というより場合によっては、具材の入った冷たいフライパンを加熱すると、Reproは「なかなか温度が上がらない」と判断し、逆に火力を強めてしまい「ゆっくり温度を上げる」のと逆効果になることもあり得ます。
なので、リプコピの場合は、空のフライパンでスタートします。

空のフライパンで加熱を開始し、目標温度に達したらバターを投入

今回は、目標温度=140℃に設定しました。もう少し低い温度=120℃ぐらい、でも良いかなとも思ったのですが、樋口さんの動画を見ていて仕上がりの焼目を同じぐらいにしようと思ったのが理由です。(なので、もしかしたら芯温が71℃ x 3分よりちょっと火が入ってしまっているかもしれませんが)
ところで写真ではちょっと見にくいのですが、右側の写真のLED表示を見るとフライパンの表面温度が140℃に達して冷たいバターを入れた瞬間に、134℃に温度が下がっています。まさにこれが「バター効果?」です。

バター40g→バター50gへ増量

バターが溶けてきたら、皮目を下にして鶏むね肉を入れます。この状態で5分間加熱するのですが、その間ずっとアロゼ、つまりスプーンでバターを鶏むね肉の表面にかけ続けます。
動画では樋口さんがフライパンを傾けてバターをスプーンですくいながら、IHコンロの場合はフライパンを火から離すと加熱されなくなるので、「傾けたらまた元にもどして」を繰り返すよう親切に説明してくれています。
ここがまさにIHコンロのガス火と違うところで、IHコンロは強力な磁力線を発することにより鍋・フライパンの底に「渦電流」という電気を発生させて加熱しています。
そしてこの磁力線の有効範囲は、どんなIHコンロでもトッププレート(天板)からせいぜい高さ1〜2cmしかないのです。
ですからフライパンを傾けると加熱されなくなりますし、現在のIHコンロは頭が良いですから1秒とか2秒おきぐらいに「ちゃんとフライパンや鍋が載っているかな?」とこっそり電気的にチェックしています。
製品によっては、ある一定時間以上「フライパン・鍋が載っていない」となると加熱自体を停止してしまう場合もあります。(Reproの場合はアラームが鳴って注意喚起されるだけですけど)
それで、バターの話に戻るのですが、今回のレシピでは直径20cmの小さめのフライパンを使っています。そして樋口さんのレシピではバター40gを使っていますが、Reproのレシピではバターを50gに増量しています。
写真左をごらんいただければ分かるように、直径20cmのフライパンに300gの鶏むね肉を入れると結構にいっぱいです。さらにバターを50gに増量すると、フライパンを傾けなくてもスプーンでバターをすくうことができるようになります。
この方法はどんな料理にも応用できるわけではありませんが、今回のバターチキンには使えるはず。
「フライパンを傾けると加熱できない」というReproだけでなくすべてのIHコンロに共通のアロゼについての弱点をうまくかわすためのちょっとしたコツです。

バターチキンのリプコピ完成

ということで、樋口直哉さんの動画を元にリプコピが完成しました。樋口さんの元のレシピと他に異なる点は、最後の「休ませ時間」です。樋口さんは安全を配慮してフライパンの上で5分間休ませていますが、Reproレシピでは140℃と加熱温度を高めに設定していることもあり、休ませ時間を3分間に短縮しています。(ご心配な方は芯温計で温度を計測するか、5分に変更してお使いください)
あっ、それから塩の量が違っていますが、これはリプコピとは無関係で、単に冷蔵庫の中に無塩バターしかなかったからです。(笑)


こちらが完成したReproレシピの「バターチキン」です。
自分のレシピも、著名な誰かのレシピも、これまでのさまざまなレシピをReproを使って定量化する作業はパズルみたいでちょっと楽しいです。
特に樋口さんのレシピは、単に手順だけでなく「どうしてそうするのか?」の科学的根拠まで説明してくれるのでとっても「リプコピ」がしやすいです。やっぱり単に手順を知っているだけなのと、なぜこんなふうに作るのか?の理屈も知っているのとでは、料理に対する深みも応用力も全然違います。
みなさんも樋口さんの動画とリプコピごっこで、たまには料理を使って頭の体操するっていうのもいかがですか?

【おまけ】美味しいバターチキンの食べ方

作ったバターチキンを冷まして真空パックして1〜2日冷凍します。そのあと火が入りすぎないようReproで鍋の水温を70℃に設定して、70℃のお湯で10〜15分ぐらいゆっくり湯せんします。
冷凍→解凍で細胞膜にダメージを受けたバターチキンは冷凍する前より味が染み込んで肉が柔らかくなっています。
ご興味のある方は、試してみてください。

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