横浜 元祖ナポリタン物語その1

 先日、横浜マリンタワーのレストランでで知人のウェディング・パーティがあったので、ホテル ニューグランドに宿を取りました。「マリンタワーのすぐそばだから」というのはただの口実。
本当はニューグランドの「元祖ナポリタン」を食べてみたかったから。

ホテルニューグランドの元祖ナポリタン

ここがニューグランドのコーヒーハウス ザ・カフェ。その佇まいからして横浜という街とその歴史を感じる素敵さ。

そして遂に登場した「元祖スパゲッティ・ナポリタン」!
ウェディング・パーティーでフルコースを食べた後にもかかわらず、食べてみずにはいられないその端正なフォルム。
瀟洒な物腰のウェイターさんにサーブされ、否応なく高まる期待に胸を弾ませ、こちらも駅前の喫茶店とはいささか異なる挙措で、上品にナポリタンを口元に運ぶと。

「アレ?」

こ、これは私の知っているいわゆるナポリタンではない。
明らかにグアンチャーレやパンチェッタが上質のハムに変わっただけの「アマトリチャーナ」(もしくはナポリターナ?)です。
逆に一流ホテルで提供するに十分なクオリティの本格的なパスタなのですが…

ぐるっと一周してアマトリチャーナに

一体どういうことなのでしょう?という理由はホテルニューグランドの公式HPにちゃんと書いてありました。


このページによると、終戦後1952年までホテルニューグランドはGHQ将校の宿舎として接収されており、兵士たちが軍用保存食の中にあったトマトケチャップとパスタを和えた料理を食べていたそうです。
つまり、ナポリタンの本当の起源はGHQの兵士たちにあった?
それを見ていたニューグランドの二代目総料理長の入江茂忠氏が、接収解除後に「ホテルで提供するに相応しいスパゲッティ料理を作ろう」と思い立ち、生のトマト、トマト缶、トマトペーストを使った今の「元祖ナポリタン」、いやアマトリチャーナ的なスパゲッティを作ったとのこと。
つまりはナポリタンから一周回って元祖ナポリタンはアマトリチャーナになったってことですか…

いわゆる「ナポリタン」との共通点と相違点

なんとラッキーなことに、ホテルニューグランドの元祖ナポリタンのレシピはNHK「みんなのきょうの料理」のサイトにニューグランドの五代目総料理長 宇佐神茂氏のレシピが「元祖 スパゲッティナポリタン」として掲載されています。


このレシピを見ると、やはり生のトマト、トマト缶、トマトペーストでトマトケチャップを使っていないのが、いわゆる「ナポリタン」と最大の違いです。(さらにはチキンスープも要求されていますが)
パスタの太さは明記されていないのですが、見たところ1.6mmぐらいのスパゲッティーニでしょうか。いわゆる「ナポリタン」と共通するのは、前の晩に茹でた後冷水でしめて一晩冷蔵庫に置いていることです。
食べた感じは、あのうどんのようなもちもち感はそれほど感じられず、逆にちょっとアルデンテ感すらありました。もしかしたら芯が柔らかくて外側がちょっと硬めの「逆アルデンテ」になっているのかもしれませんが、ウェディング・パーティー後で、アルコールも入っていることもあり… なにせ細めのパスタなのでよく分かりませんでした。(苦笑)
これについては、後で「リプコピ」して、Reproで再現レシピにトライしてみたいと思います。

野毛 センターグリルの元祖ナポリタン

ところで、おしゃれな山下公園そばのホテルニューグランドの元祖ナポリタンと双璧をなすのが、居酒屋・飲み屋が軒を並べる庶民的な商店街 野毛にある洋食屋さん「センターグリル」の元祖ナポリタンです。ニューグランドのナポリタンを食べたら、こちらはどんなナポリタンなのか無性に知りたくなり、早速おじゃまを。

午前11時の野毛の街

都心を午前10時に出て、センターグリル開店の11時ちょっと前に野毛に到着。夜はほろ酔い気分の皆さんで賑わっている野毛の商店街もこの時間は閑散とした雰囲気。センターグリルはそんな路地の片隅にありました。

人影もまばらなその街で、開店前にもかかわらずセンターグリルの前にはすでに5〜6人の行列が。観光客なのか地元の方なのか、まるで人気ラーメン店のよう。

良き昭和の面影を残す店内。
と思いきや、のっけから壁に大きく飾られた毛皮にド肝を抜かれます。
これ何の動物の毛皮ですか?シマウマ?ホワイトタイガー?

そして遂にご対面。センターグリルの元祖ナポリタン!
かたやホテルニューグランドの元祖スパゲッティ ナポリタンは2,340円
センターグリルのナポリタンは850円
それは故黒澤明監督の横浜を舞台にした名作映画「天国と地獄」を彷彿とさせる、この街の両極にあるナポリタン対決です。
銀色のオーバルの上に千切りキャベツ、ポテトサラダを従え、有無を言わさず最初から粉チーズがかけられているところにも「昭和の威厳?」を感じます。
一口頬張ると期待通りの極太麺のモチモチ感と芳醇なトマトケチャップの味が口内に広がり…

「アレ?」

そう、薄々知ってはいましたが、このナポリタン 基本的に「トマトケチャップ」だけの味付けなんです。
普通のトマトケチャップだと酸味が強いこともあり、ナポリタンを作る時には往々にしてウスターソースを混ぜたりしてコクや甘みを出すんですが、そんな小手先の技は使わない。
その代わり、トマトケチャップがめちゃくちゃ甘くて美味しい。完熟して糖度の高くなった最高のトマトで作ったんだろうな、と感じさせるケチャップで、そのケチャップの美味しさで最後まで食べ切らせてしまうという、これまたある意味エッジの立ったナポリタンです。

その起源はやっぱりニューグランド さらに一周回ってナポリタンに

センターグリルのサイトによれば、創設者 石橋豊吉さんはホテルニューグランドの初代料理長サリー・ワイル氏の経営していたセンターホテルで働いていました。これは戦前の話です。(ちなみにセンターホテルはニューグランドの裏手にあったホテルでワイル氏が買収したそうです)

ニューグランドのサイトでは「終戦後1952年までホテルニューグランドはGHQ将校の宿舎として接収されており、兵士たちが軍用保存食の中にあったトマトケチャップとパスタを和えた料理を食べていたことに二代目総料理長の入江氏が…」などとありましたが、センターグリルによれば、初代料理長のワイル氏がセンターホテルで生トマトを料理に使っていたようで、創設者の石橋さんは高級食材の生トマトは街の洋食店では手に入りづらいため、トマトケチャップで代用することを考案したんだとか。センターグリルの創業は終戦からわずか1年後の1946年。
どちらの「元祖ナポリタン」も、戦後の物資が不足していた時代に、一方は一流ホテルの矜持を守るべく、一方は多くの人に美味しい洋食を楽しんでもらうために生まれた料理だったのですね。(店名のセンターグリルは、このセンターホテルに由来するそうです。フルネームは「米国風洋食センターグリル」です。)

お会計にもズキューンです

VOLCANOセンターグリルの横濱ナポリタンスパゲッチ 2.2mm ヨドバシドットコムでも買えます

ケチャップのうまさにやられて一気に完食した後、家に帰ってReproで再現してみようと、レジの向かいに並べられていた「VOLCANOセンターグリルの横濱ナポリタンスパゲッチ 2.2mm」を一袋取り上げ、一緒にお会計を。

「1200円です。」
「へっ?」

聞き間違いかと思い、2200円出したら、「いや1200円ですよ。」
スパゲッチは350円ですか…素敵です。もしかして分不相応にもホテルニューグランドに宿泊した直後だったので、ことさら安く感じたのかもしれませんが…
ちなみにこの「スパゲッチ」はヨドバシドットコムでもお買い求めできます。「在庫残少」でしたが。

レシピも伺いました

お会計を済ませながら…

「本当に塩・こしょうで味を整える以外はトマトケチャップしか使っていないんですか?」
「はい、うちはそうです。」

「あの〜1人前で、どのぐらいトマトケチャップを入れれば良いのでしょう?」
「どのぐらいって… おたまで最初は少なめに入れて、色がちょうど良い感じになるまで足していくんですよ。」


…えへへ。そうですよね。職人さんってそういうことですよね。とは言え、他のことは細かく教えてくれて、「スパゲッチ」の茹で時間は13分と書いてあるけど15分が良いとか、冷蔵庫に一晩置くときに麺がくっつかないようにするための油はサラダ油かオリーブ油が良いとかetc.
サイトに書いてある調理のコツには「調理は、ケチャップを入れてからしっかりと炒めることにより酸味が飛び、甘みが引き出されています。」とありますが、スパゲッチより先に具材を炒めたフライパンの空いたスペースでケチャップを炒めるとは言ってなかったな。
大体その前工程があると「色がちょうど良い感じになるまで足していく…」ができないし。
まあ、これも試行錯誤でリプコピして、Reproの再現レシピを作ってみましょう。

大事なのはケチャップの選び カゴメトマトケチャップ プレミアム

カゴメ トマトケチャップ プレミアム260g

それよりも大事なのはトマトケチャップ選び。いくらケチャップに火を入れても、元が美味しくて糖度が高くないと、おのずと限界がありますし。
で、選んだのが「カゴメ トマトケチャップ プレミアム260g」。

Amazonだと6個セットで3,503円=1個あたり584円。同じくAmazonで売っている普通のカゴメ トマトケチャップ500gの4個セットが1,092円=1個あたり273円。
つまりグラム換算すると、普通のトマトケチャップの約4倍のお値段になる超高級トマトケチャップです。しかしながらメーカーの説明によれば、ポルトガル産の酸味が少なく、甘く感じる高糖酸比の完熟トマトを使用しているとか。850円のナポリタンにこんな高級トマトケチャップを使って採算が合うのか?
いささか疑問は残るものの、まずはこれで試してみましょう。

次回から2つの元祖ナポリタンをReproで再現

ということで、横浜の元祖ナポリタンについて歴史とその特徴はおおよそ把握したので、次回からはじっくり、この2つの元祖をReproで再現していきたいと思います。
最後に、センターグリルで使用している「VOLCANOセンターグリルの横濱ナポリタンスパゲッチ 2.2mm」について一言。このボルカノというパスタは1928年に兵庫県伊丹市で生まれた日本初の国産スパゲッティだそうです。
なんかすべてが「元祖」なんですね…




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