横浜 元祖ナポリタン物語その3 ホテルニューグランド編

この「横浜元祖ナポリタンシリーズ」の発端となったホテルニューグランドの元祖ナポリタンをReproで再現し、研究してみましょう。

再現レシピを作るための貴重な情報

ホテルニューグランドの元祖ナポリタンには、歴代の料理長本人が説明している、とても参考になる貴重なレシピ資料が存在します。


まずは5代目総料理長の宇佐神 茂さんによるNHKの「みんなのきょうの料理」でのレシピです。横浜元祖ナポリタンナポリタンその1」で詳細は説明しましたが、ナポリタンと言いながらこのレシピには「トマトケチャップ」が使われていません。

本当のトマトの水煮缶の分量は…

 このレシピでちょっと悩むのは、トマトソースを作る材料の分量です。
トマトの水煮(缶詰)250g」と、このNHKのページにはあるのですが、市販されている大抵のトマト水煮缶は、総重量(水分も含む)=400gで固形物量=240〜250gです。


(1)缶詰を一缶そのまま入れて良いのか
(2)固形物だけ入れろということなのか
(3)それとも水分も含め単純に250g分缶詰から取り分けて使え


ということなのか分かりません。想像するしかないのですが、トマトソースの材料としては他に生のトマト300gもあり、このすべてを混ぜて「半量になるまで煮詰める」、とあります。トマト缶全部と生トマト合わせると700g(半量で350g)。缶詰を単純に250g分だけ取り分けると550g(半量で275g)。2人分とすると約137g/一人。半量まで煮詰めたソースの粗熱を取る過程でも水分は蒸発していくので、最終的な仕上がりはその約8分目まで減ると思われます。
そう考えると、まずは(3)あたりの解釈が妥当かな、と。


また、こちらの記事は、ホテルニューグランド 「ザ・カフェ」の長谷 信明 料理長が元祖ナポリタンについて作り方のコツを教えてくれています。

にんにくと玉ねぎの加熱温度を推測する

記事の中で長谷料理長は、
「オリーブオイルを火にかけ、ニンニクと刻んだタマネギを、じっくり焦がさないようアメ色になるまで炒めます。目安はニンニクが15分、タマネギが30~40分です。」
トマトソースを作る時に、トマト類を入れる前ににんにくと玉ねぎをじっくり炒めるのですが、この加熱時間を見ると、かなり低温で炒めているのでしょう。ガスコンロなら、よほどのとろ火にしない限り、にんにくが15分かけてきつね色になる火加減は結構に至難の業です。
いったんフライパンの表面温度=110℃でにんにくを15分間炒め、さらに玉ねぎを投入して35分間炒めてみます。

ホテルニューグランド元祖ナポリタンの材料【トマトソース】

NHKきょうの料理のレシピでは「作りやすい分量」が2人分になっているのでほぼその通りに。

  • トマト                   300g
  • トマトの水煮缶(ダイストマト)        250g
  • トマトペースト                  6g
  • にんにく                     10g
  • 玉ねぎ                     35g
  • ローリエ                     1枚
  • オリーブ油                   15ml
  • 塩                   適量(1.5g)
  • こしょう                適量

作り方1 事前準備篇

ナポリタンの王道らしく、前日に1.6mmのスパゲッティーニ(70g)を指定時間どおり茹で、冷水で締めて10mlのサラダ油をかけ回して混ぜ、冷蔵庫に一晩寝かしておきます。

作り方2 トマトソース編

トマト300gを湯むきして、横半分にカット。種とわたを取り除き粗みじん切りにします。

元のトマト=2個で335g みじん切り後=187g

と、この時点ですでに分量に不安がよぎります。元々は2個で332gあったトマトが湯むきして、種とわた、そして緑色の固い部分を取り除いてみじん切りにすると、なんと半分近く332g→187gに減ってしまいます。本当にこれで大丈夫なのかなあ…
まあ、いったんは「きょうの料理」のレシピを信じて先に進みましょう。

にんにく(みじん切り)を110℃15分できつね色に

みじん切りしたにんにくとオリーブ油を冷たい鍋に入れて加熱スタート。
110℃・15分かけてじっくりきつね色になるまで。ここは火の入り具合を見て温度や時間を調節してください。

15分経ってにんにくが色付いてきたら、粗みじん切りした玉ねぎを投入して40分間炒めます。(きょうの料理のレシピでは30〜40分と記載されていました)
ここで悩ましいのが、にんにくと玉ねぎではきつね色になる(メイラード反応が起きる)温度が異なるという問題です。玉ねぎを「あめ玉」とまではいかなくてもそれなりにメイラード反応を起こさせたいとすると、135℃ぐらいに温度を上げたいところ。最低でも120℃には上げたい。

左が110℃で加熱 右が120℃で加熱

ということで玉ねぎ投入後の温度を120℃に上げて実験してみました。ごらんの通り、たかだか10℃しか変わらないのですが、にんにく→玉ねぎと連続して炒めてしまうと、にんにくに焼色がどんどん入ってしまいます。別に焦げてしまっているというところまではいかないのですが…
逆に110℃・40分でも仕上がりは十分美味しかったので、このレシピでは、にんにくも玉ねぎも110℃でゆっくり火入れすることにします。
ちなみに「オレはあめ玉にしたいんだ」という方は、別のフライパンで玉ねぎを炒めてあめ色にし、それをにんにくを炒めた鍋に戻すことをお勧めします。

玉ねぎもきつね色?になったら、みじん切りしたトマト、トマト水煮缶(ダイス)250g、トマトペースト、ローリエ、塩、こしょうを入れて煮込み始めます。
火力はReproで言えば「沸騰レベル0.0」、普通のガス火で言えば「とろ火」でしょうか。きょうの料理のレシピでは、
ふたをせずに半量になるまで20分ほど煮込む
とありますので、約20分間、ソースが半量になるまで焦げ付かないようにシリコンへらなどで混ぜながら煮込みます。
煮込み始める前の内容量=464gだったので、半量=232gになるまで煮込んでみました。

今回はレシピを作成するので、煮込む前に重量を測り、きっちり半量になるまで煮込みましたが、その結果は実際には半量になるまで30分かかりました。でもこれ以上火力を強くすると鍋底に焦げができそうなのと、周りへの飛びハネがすごくて…
普段の料理できっちり重量を測るのも大変なので、簡単な目視方法を。
次第に煮詰まって粘性が高くなってくると、左の写真のようにシリコンへらなどで一直線に鍋底をこすった時に一瞬鍋底が見えてくるようになります。これが右の写真のようにこすった後もそのまま鍋底が見えたままになった状態が、おおよそ半量に煮詰まったタイミングです。
Reproでは火力を微妙に調節できるのでまったく鍋底が焦げ付いていませんが、ガス火などの場合は焦げないようにできるだけ弱火で加熱し、頻繁にかき混ぜることがポイントです。

トマトソースが完成しました。煮込み終えて粗熱を取っている間にも水分は蒸発していくので、最終的な仕上がりは225gでした。

ホテルニューグランド元祖ナポリタンの材料【パスタ】

元祖ナポリタン完成編の材料はNHKの「みんなのきょうの料理」のレシピ(2人分)から割戻し、一人分で作成してみます。

  • スパゲッティーニ1.45〜1.6mm   70g
  • ハム               40g
  • マッシュルーム          2個
  • トマトソース           110g
  • チキンスープ      大さじ2(30ml)
  • バター(炒め用)    大さじ1(12g)
  • バター(仕上げ用)   大さじ1(12g)
  • 塩             適量(1g)
  • こしょう          適量
  • 砂糖            適量(3g)
  • パセリ           適量
  • 粉チーズ          適量

NHKきょうの料理に、パスタの種類について指定はありませんが、実際に食べた感じから1.6mmぐらいのスパゲッティーニとしました。トマトソースは一人前=110gとします。
チキンスープは顆粒鶏ガラスープの素を適度に水で薄めても。

作り方3 仕上げ編

ハムとマッシュルームをカットして、フライパンの表面温度=140℃に。このナポリタンはマッシュルームの風味がホテルらしい高級感を醸しているので、できるだけ缶詰のマッシュルームではなく、生のマッシュルームを使うことをお勧めします。

フライパンが140℃になったら具材を炒めます。火が入るとバターとマッシュルームの美味しそうな香りがたまりません。

具材に火が通ったらスパゲッティを投入し、塩・こしょうをしながら3分間炒めます。きちんとスパゲッティを炒めてイタリア人が見たらびっくりするような、日本的なナポリタンらしさを演出しましょう。

3分間スパゲッティを炒めたら、チキンスープをかけ回し、チキンスープが沸騰してきたら事前に作り置きしたトマトソース110g/一人前を投入します。ちなみにここからはフライパンの表面温度=120℃に下げています。

ここでもトマトソースをよくパスタに絡ませつつ、フライパンの熱でトマトソースに火が入るようしっかり炒めていきます。そしてここが高級ホテルらしいところで、最後にバター大さじ1を隠し味として投入します。(分かりにくいのですが、右側はバター投入後の写真)
そして、ここでもう一つ大事なポイントが。

アマトリチャーナかナポリタンか?

先に紹介した記事の中で、ホテルニューグランド 「ザ・カフェ」の長谷 信明 料理長がこうお話しています。

「基本の味付けは塩コショウですが、ちょっと甘みが足りないので、砂糖を少し入れるのがおすすめです。」

そう、ここで終わるとアマトリチャーナ感が強いのですが、砂糖を加えていくと次第にナポリタン感が強まっていきます。そりゃそうですよね、トマトケチャップには100gあたり26g近い糖質が含まれています。トマトの糖質を差し引いても20g弱の砂糖が入っている計算に。
このレシピだと110gのトマトソースを使っていますから、トマトケチャップ風にするなら、なんと20gぐらいの砂糖を入れないといけないことになります。
ただそれだと、せっかくケチャップを使わないで作ったナポリタンの意味がなくなってしまうので、今回はバターを入れる前に3gだけ砂糖を加えました。たったこれだけでもだいぶ食べやすいというか、ナポリタンっぽい風味が出てきます。
アマトリチャーナっぽいスパゲッティなのか?ナポリタンっぽいスパゲッティなのか?
ここは作りたい方向性で砂糖の量を決めてください。

ホテルニューグランドの元祖ナポリタン(再現版)

最後にパセリを散らし、粉チーズをトッピングすればホテルニューグランドの元祖ナポリタンの完成です。いわゆる「喫茶店のナポリタン」とは一線を画す「高級ナポリタン?」が出来上がります。ふんだんに使ったマッシュルームとバターも風味豊かで高級感をさらに引き立てています。
ということでホテルニューグランド版は、トマトソースと仕上げの工程が完全に分かれているので、Reproレシピは2つにしました。


【おまけ】材料使い切りレシピを

今回は、NHKの「みんなのきょうの料理」のレシピを基本にReproレシピを作ってみました。そこではトマトソースについて「作りやすい分量」とあるんですが、一般に売っているトマト缶は大抵が総量400gです。トマトペーストに使ったカゴメトマトペーストミニパックは一袋18gです。
ここから250gのトマト水煮と6gのトマトペーストを使うと、「残りはどうすればいいの?」と、ちょっと割り切れない気持ちになってしまいます。
そこで生トマトの量は同一のまま、トマト缶全部=400g、トマトペーストミニパック1パック全部=18gを使って3人前分のトマトソースも作ってみました。
結果としては、そこまで味に変わりはなく、それなりに美味しくできました。その際の分量をご参考まで。

材料使い切りの場合の分量

  • トマト                    350g
  • トマトの水煮缶(ダイストマト)        400g
  • トマトペースト                 18g
  • にんにく                    15g
  • 玉ねぎ                    50g
  • ローリエ                    2枚
  • オリーブ油                 20ml
  • 塩                   適量(2.5g)
  • こしょう                適量

そして、半量になるまでの煮込み時間は20分延びて50分かかります。「材料が中途半端に残るのはイヤ」という方でReproユーザーの場合は、「ニューグランドの元祖ナポリタン(ソース)」レシピのSTEP04の加熱時間を30分→50分に修正してお使いください。

最後に

まずは注意点を。
【注意点1】 生のトマトを湯むきして種とわたと緑の固い部分を取り除くと、思いのほか分量が少なくなります。NHKの「みんなのきょうの料理」では生トマト=300gとなっていますが、トマトソースの仕上がり量(つまり2人分のソース)を一人当たり110gとするなら、2人分=220g確保する必要があります。今回も元が332gのトマトで仕上がり量が225gとギリギリでした。
安全策として生トマトの量は350gにしておくことをお勧めします。(ちなみにReproレシピでは350gに修正しています)

【注意点2】 トマトソースを煮込むと、弱火で煮込んでも想像以上にソースの跳びはねがすごいです。NHKの「みんなのきょうの料理」では水分を蒸発させるため、
ふたをせずに半量になるまで20分ほど煮込む
と書いてあるので、ふたをかけるわけにもいきません。

左がCRISTEL L 16cm 右がVita Craft ディア両手鍋深型16cm

今回はCRISTEL L 16cmを使いました。この鍋でも直径に対して深さが結構あるな、と思っていたのですが、それでもハネがたいへんでした。なのでReproにプロファイル登録されている鍋の中では、例えば写真右のVita Craft ディア両手鍋深型16cmなど、小さなポトフ鍋のような形状のものをお使いになることをお勧めします。少しは跳びはねが防げるかもしれません。

そしてもう一つは今回の発見のおさらい。
トマトケチャップを使ったナポリタンの場合、酸味を抑え甘みを感じさせるためにフライパンでじかにケチャップを加熱するのが今や常識になっていますが、元々の糖質量が少ない生のトマトとトマト缶とトマトペーストで作る時は分かりやすく「砂糖を加える」ということ。
今回は糖度が普通の「桃太郎トマト」を使いましたが、糖度の高い品種を使ったり完熟したトマト(生産地の近くでないと、なかなか都会のスーパーでは手に入りにくいですが)を使うというのも一つのやり方です。
とにかく、いつもレシピ作りは勉強になります。

メルマガ購読


Reproに関する最新情報をいち早く知れるほか、Reproキッチンコラムのホットな記事もお届けいたします。ぜひご登録ください。