前回は、「焼目を付けてから蒸し焼きする」という亀戸ぎょうざにトライしてみました。
今回は焼き方としては、正統派というか主流派の「蒸し焼きにしてから焼目を付ける」タイプの宇都宮みんみんの冷凍餃子にトライしてみたいと思います。
目次
餃子とその焼き方の歴史
ところで、Xにコラム記事掲載の告知をしたところ、よくコメントを頂いている方からこんなメッセージが。
餃子の歴史、それも焼き方の歴史もなかなか興味深いです。水餃子が主流の中国、それも餃子の本場である東北地方でも、焼餃子があったんですね。貴重な情報ありがとうございました。
さらにその焼き方はなんと「亀戸ぎょうざ方式」。
こちらのサイトによれば、
「例えば『煎餃子』は日本でいう焼き餃子なのですが、この餃子は元々貴族が残した水餃子を使用人が焼き直して食べるものでした。
既に茹でて御膳に出した水餃子をもう一度茹で直して食べても美味しくありませんよね…。じゃあ焼こうか!という使用人の知恵で工夫して食べられていたのが日本の焼き餃子にあたる『煎餃子』の成り立ちです。」
とも書かれています。そもそも水餃子を焼き直したのなら、よほど水餃子が乾いてしまっていない限り、先に蒸し焼きはしないかもですね…
餃子を自分で焼かない方には、たかが「焼き方の違い」かもしれませんが、そこからも餃子の歴史が垣間見えてくるのは面白いなあと。
宇都宮みんみんの焼き方をおさらい
と、閑話休題して「宇都宮みんみん」の焼き方についておさらいします。
宇都宮みんみん冷凍餃子に同封されている説明書きによれば大まかな焼き方は以下のとおりです。
(1)フライパンに油をひき、十分に温める
(2)餃子を並べて、水を餃子の高さの1/3〜1/2ぐらいまでかけてふたをする
(3)水分が蒸発して好きな焼目まで色が付いたら完成
(4)最後まで強火で焼くのが理想的
おさらい(2)餃子の最適加熱温度は180℃
もう一つのおさらいは前回ご紹介した、焼き餃子協会 代表理事の小野寺 力さんの、「餃子を焼く最適温度は油のスモークポイント(発煙点)を超えない180℃」だとの説。
この2つのおさらいを前提に「宇都宮みんみん」の理想的な焼き方を考えていきます。
加える水の分量は240ml
説明書きにある「水を餃子の高さの1/3〜1/2ぐらいまでかけてふたをする」という水量について、ちょっとだけ厳密に調べてみました。
宇都宮みんみんの冷凍餃子の高さは、約3.5cmでした。仮に1/3の高さだとすると1.16cmになります。
さすがに「1.16cm」は細かすぎるので、「1cm」ということに数字を丸めました。
今回も前回と同様にSCANPAN CTX20cmを使用します。そこでこのフライパンで1cmの高さまで水を入れてみました。この水量を計量カップで測ってみると、なんと「240ml」。
けっこうな水量ですねえ。でも宇都宮みんみんの説明書きには、
「水の量はあくまで目安です。多すぎても焼き上がりが遅くなるだけ。宇都宮みんみんの餃子ならくずれません」
と書いてあります。本当かなあ?とも思いつつ勇気づけられもします。でも心配なのは「餃子がくずれる」ことより焼き加減です。
「水が入っている限りフライパンの温度は100℃より高くならないはず」
というのは間違いです。水がグツグツ沸騰している時、確かに1気圧での水の温度は100℃ですが鍋底自体の温度は110〜120℃ぐらいになっています。(詳しくはこちらのコラム記事をごらんください)
そして餃子の底面は鍋底に接しています。もしかしてうまい具合に鍋底と餃子の底面の間に油の層が挟まっている可能性もあります。
理屈としてはフライパンに水を入れて加熱すると水がなくなるまでは100℃をキープして、水が蒸発しきったら、どんどんフライパンの温度が上がっていくはずです。
しかしReproで実際にこれをやってみると、フライパン底面外側に接している本体センサーで計測した温度推移は、水量が多い間は少しづつジリジリと100℃以上に温度が上がっていき、水量が少なくなるにつれ加速度的に温度は上昇し、また水量もそれにつれて加速度的に減っていく、という具合になります。
つまり水量の違いによる、水分が蒸発しきるまでの加熱温度時間の違いは餃子底面の焼き具合に影響するのではないか?と心配しているわけです。
宇都宮みんみんの焼き方実験
まず、冷凍餃子の説明書きには
「すべての餃子にいきわたる量の油をひき、十分に温めます」
と調理の初期段階について書いてありますが、これを文面通りに受け取って、フライパンを十分に温めてしまうと、フライパンに水を入れてふたをした時に、前回の実験のように水蒸気爆発を引き起こしかねません。
なので実験の大まかな方法は以下のとおりです。
(1)フライパンに十分な油をひき、まず100℃に温める
(2)100℃になったら餃子を置く
(3)240mlの熱湯をかけ入れ、ふたをしたら180℃に温度をあげる
(4)水分が多いのでジリジリと表面温度は上がり蒸し焼きを続ける
(5)水分がすべて蒸発し180℃に到達したら◯分間180℃をキープする
ということで、さっそく焼いてみましょう。まずは1回に5個づつ焼いてみます。
焼目を付ける加熱時間は何分が最適か?
上記の写真は、水分量は同じ240mlで、最後の180℃キープ時間だけを変えています。
左から、1分間、3分間、4分間です。1分間はさすがに焼目の色がちょっと薄いかな、という感じですが3分間と4分間はほとんど変わりません。
そもそもネットで実際のお店で焼いた餃子の写真を見ると、宇都宮みんみんの餃子は亀戸ぎょうざに比べて焼目の色が薄いんですね。
3分間と4分間は焼目の色に違いはほぼありませんが、底面のカリッとする具合は微妙に異なります。残念ながらまだ宇都宮みんみん本店に伺ったことがないので、本当は、どこまでカリっとさせるのか?が正確には分からないのですが…
レシピとしては「3分間」をいったん採用してみましょう。
水分量の違いは側面の皮の柔らかさに関係する
餃子の高さを測り、その1/3ということで「240ml」という水分量をあらかじめ決めましたが、本当に水分量が焼き加減自体には影響しないのかも検証したく、半分の120mlと、340ml(本当は360mlにしたかったのですが、それだとあまりに水量が多かったので餃子の高さの1/2強になる量で妥協しました)で比較してみました。180℃での加熱時間はいずれも3分間です。
ちなみに、フライパンの表面温度=100℃の状態で熱湯を入れて180℃に達するまでの時間は、
120mlの場合 5分17秒
240mlの場合 8分22秒
340mlの場合 13分23秒
でした。
これだけ加熱時間が違うのに、出来上がりの写真を見ると、確かに説明書きにあるように見た目の焼目の色はさほど違いがありません。
ただ違いがあるのは、底面の焼き加減ではなく、側面の皮が水分を含む量です。
120mlの場合は、皮がちょっとパサついていると言うか、乾いた感じが気になります。
240mlの場合は、ちょうど良いモチモチ具合。
340mlの場合は、ちょっと水分量が多すぎてふにゃふにゃになっている感じが。
これまた説明書きにあるように、最初に入れる水の量は、餃子の高さの1/3〜1/2(=240ml〜300ml)ぐらいが最適なようです。
最終的なレシピは5個ではなく、8〜10個(宇都宮みんみんは亀戸ぎょうざよりややサイズが小ぶりなので)を同時に焼きたいと思っているので、その意味でも、このフライパンでは240ml前後がベストな予感がします。このぐらい餃子を入れると、餃子の高さの1/3〜1/2の間に落ち着くはずです。
最終的なレシピで作ってみる
Repro的なレシピはごらんのとおりです。マルチステップ的には至ってシンプルで、
まず100℃にフライパンを加熱し、餃子と熱湯を入れてふたをして180℃まで加熱。180℃になったら3分間キープして焼目を付ける、以上です。
それでは早速焼いていきましょう!
油の量は30ml=大さじ2
これまでは実験だったので具体的な油の量には触れてこなかったのですが、説明書きには、
「すべての餃子にいきわたる分量の油をひき…」
とあります。
最終的なレシピでは、8〜10個ぐらい同時に焼きたいと思っていたので、フライパンいっぱいになるはず。この直径20cmのフライパンの底全面に油がいきわたる量は「30ml=大さじ2」でした。意外に多いですね。
フライパンに油を入れたらスタートボタンを押して100℃に加熱します。(ちなみに油は普通のサラダ油を使いました。)
20cmだと餃子は6個が限界?
100℃に到達したら油の上に餃子を置きます。しかしここでも説明書きには、
「餃子と餃子の間を多少開けぎみにしてください」
と。縦2列に置いていくことがギリギリできず、風車状に配置していくと、7個以上は餃子と餃子が微妙に触れてしまいます。説明書きに忠実に焼くには、直径20cmのフライパンでは6個が限界でした。
熱湯240mlを投入して180℃に加熱スタート
餃子全面にはたかれている粉を流し落とすように熱湯240mlをかけ入れます。結局6個しか入らなかったので、餃子の高さのほぼ1/3ですね。説明書きには「水」とありますが、ここは「熱湯」に変えさせていただきました。そしてふたをして、180℃に向けて加熱を開始します。
水量が多いうちは120〜130℃
フライパンの中の水量が多いうちは、ジリジリと温度が上がっていきます。本体センサーで検知しているフライパン底の温度で120〜130℃ぐらいまではこの状態が続きます。大量の油とともに蒸し焼きになっていますが、亀戸ぎょうざのように180℃の油に突然水分を投入するわけではないので、水蒸気爆発的な状況は起きません。ただ、ふたとフライパンのすき間から終始湯気が漏れるという感じです。
水量が減ってくると加速度的に温度上昇
中の水量が減ってくると、温度上昇速度は次第に早くなっていきます。160℃ぐらいになると水分はかなり減ってきます。仕上げにフライパンにお皿をかぶせてひっくり返して盛り付けしたい場合には、このぐらいのタイミングでフライパンを少し揺すってあげるとフライパン底とのこびりつきが減り、具合が良いかもしれません。
180℃で3分間加熱
ついに180℃に到達。もう水分はほぼ無くなっています。油はねを極力減らしたかったので、ここまで一度もふたは開けていません。今回のレシピでは180℃が上限ライン。180℃に到達したら温度上昇を頭打ちにしてしまうので、説明書きにあるように「最後まで強火」はできませんが、まあそこは妥協しましょう。
3分間経って、ふたを開けてみるとこんな感じです。
思ったより焼色が付いている
あれ?思ったより焼色が付いています。やっぱり油をたくさん入れると焼色は濃くなりますね。焼色を付けるために、水分が無くなった時点で「追い油?」をかけ回すことも意味があることが良く分かります。
ちなみに当然ながら焼色が濃くなれば、底面の皮のパリッと感は比例して固くなります。「これだと固すぎ」と感じる方は、お好みで最後の180℃の加熱時間を3分→2分に減らすなど調整してみてください。
今回の実験をもとに、すでにあるRepro開発チームのレシピ「宇都宮みんみんの冷凍餃子」のレシピを180℃バージョンに改良しました。
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ガス火だと、なかなか「180℃キープ」は難しいですが、180℃と200℃で油の種類を色々変えて、スモークポイント(発煙点)を超えた場合に、どう風味が変わるかを比較してみるのも面白いかもしれません。