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高級食材の集中砲火

あいにく私は大富豪でもなければ、美食家でもないので、これまでの人生で、高級食材、それもその中でも最高品質の食材を、これでもかと言わんばかりに食したことは、この夜までありませんでした。
「いんぼすこ神宮前」
北海道岩見沢市出身の渡部敏毅シェフと奥さまの渡部宏美シェフが切り盛りするこのレストランは、その季節ごとの、まさに究極の食材を追い求める求道者。お伺いしたのは昨年の秋。これほどに美味しい旬の松茸の集中砲火を浴びた経験は鮮烈の一言に尽きます。

すでに季節は移ろい、その後「白トリュフ」、そして今は「松葉蟹と天然とらふぐ」へと食材は変わってきているものの、その旬の折々の最高の食材を味わってもらう、というコンセプトは一貫していることでしょう。
出迎えてくれたのは…

店内に入ると出迎えてくれるのは、渡部夫妻両シェフだけでなく、こんなに可愛らしくコーディネートされたナプキンも。
開戦の火ぶたを切るのは最高級そして最大級のキャビア

スタートはブッラータチーズの上に山盛りにされたキャビア。最高級キャビアの、この粒の大きさ、そしてこの量。のっけから高級食材の物量作戦に圧倒されます。メインの食材は季節によって変われども、これは通年を通して、このレストランのシンボリックな存在となる一品です。
季節のフルーツと生春巻き

そして次も、いんぼすこの定番料理「季節のフルーツと生春巻き」が登場。
伝染病のため長いことイタリアからの生ハムの輸入が停止されている中、渡部シェフが探し当てたのは、1900年にイタリアからアメリカに移民した一家が経営するボルピー社の生ハム。
アメリカの古代種の黒豚を使って18ヶ月熟成させたもの。最高の食材を探す渡部シェフの情熱は飽くことを知らないようです。

生ハムの下にはライスペーパーが敷かれており、それをクルクルと巻いていただくのですが、さらにその下には、ミントとディルを使ったソースが隠れています。
松茸のコンソメ

遂に真打ち食材の登場です。「松茸のコンソメ」。松茸の香りを逃さないために、一碗づつのコンソメに生の松茸を入れて蒸気で蒸しています。
渡部敏毅シェフいわく、
「完成したコンソメは一度必ず冷やします。ですが冷やしたコンソメを75℃以上に再び加熱してしまうと味がバラバラになってしまう。一方きのこは70℃以上に温度を上げないと味が出てきません。だから73℃のスチームで1時間半〜2時間ぐらい加熱します。」
さすがRepro使い。針の穴を通す温度コントロールで料理を仕上げています。たぶんこれはスチコンを使っているのでしょうが。(苦笑)
松茸のフライ ソースをジャブジャブつけても香り負けませんから

次は松茸のフライ。塩とキャビアon タルタルソース、さらには普通のソースまで出されて、お好きなものをつけて食べてくださいと。
以下は渡部敏毅シェフの言葉をそのまま。
「松茸にソースって勿体ないなと思われる方いるんですけど、うちのクラスの松茸になりますとソース、ジャブジャブつけても香り負けませんから。」
ブランド松茸の最高峰、長野県は後山の最高級品に対する自信のほどがハンパない感じです。
さらには、
「キャビアは調味料ですから。」
もう何がなんだか分からない世界に突入していきます。

ここで突然「フライにはビールというのも…」と。
憎いところを突いてきます。

この後は、どうもパスタが出てくるようですが、それにしてもこの松茸の量…
渡部敏毅シェフによれば、松茸は加熱するとどんどん小さくなるので、
パスタ:松茸=1:2
が黄金比だとのこと。この状態の松茸は「特開き」と言うらしく、水分量が多いつぼみはフライなどに使うけれど、「開き」は香りが強いのでパスタには開きが合うそう。
松茸のタリアテッレ

そして「松茸のタリアテッレ」。松茸のエキスをいっぱいに吸った自家製麺。
これはもう説明の要はありませんね。ひたすら「松茸まみれ」です…
焼き松茸

焼き松茸を出す直前に渡部敏毅シェフが、
「この松茸は絶対ひっくり返さないでください。せっかくの松茸が台無しになってしまいますから。お皿を持ち上げていただいて、その傘の部分にあるエキスを吸って、傘を食べて、その後に軸を縦に裂いて食べてください。」
確かに、今まで食べてきた松茸より傘の部分から明らかに水分がたっぷり染み出しています。そして食べてみると…
「香り松茸 味しめじ」なんて言葉もあるように、松茸は香りは良いけど、パサパサして味はそんなにしないものだと思っていましたが、本当の松茸?は味も美味しいものです。
渡部敏毅シェフによると、採れたての松茸は絞るとエキスが滴るほど水分量があるそうで、そのまま箱詰めにして輸送してしまうと、市場などで1週間も置かれればカビが生えてしまいます。そのため、わざと蓋を開けて乾燥させているのだそう。
シェフに言わせると、
「だからスーパーに並んでいる松茸はみんなミイラです」。
そうなんですか…
「採れたての松茸」なんて食べたことないので知りませんでしたよ。
他のきのこと違い、松茸は赤松の木から糖分をもらっているので生きた木の下にしか生えないこと。
昔は松茸自体が重宝されていたわけではなく、松脂が多い赤松は火力が強い炭になるので、ジブリ映画「もののけ姫」とかに登場する、日本刀を打つ「たたら製鉄」に用いられ重用されたため、そんな大事な木の下に生えるきのことして重宝されていたこと。
などなど、食事をしながら渡部敏毅シェフが話してくれる松茸のあれこれも面白く、やっぱり料理はストーリーを食べているんだなあ、と再認識します。
松茸と穴子のPizza

次は「松茸と穴子のピザ」。上に付けられたプレートのUEKENとは、穴子に力を入れている魚屋さんの名前だそうで、その中でもスペシャルな穴子が「SP穴子」だとのこと。
松茸も穴子も、ある種、土っぽい要素を持っているので相性は抜群。
それにしても、焼き松茸こそあるものの、ここまで、松茸フライ、パスタ、ピザと続き、せっかくの松茸が…と思われる方もいるのでは?
元々がイタリアンレストランですからというのもありますが、そのことについて渡部敏毅シェフは、こう語っています。
「松茸って香りを持っている。旨味もある。シャキッとした良い食感もある。唯一持っていないのは油分なんです。例えばピザで穴子のコク味とチーズの油分を補ってあげる。パスタもフライもそうですが、松茸に足りないものを補ってあげることによって、さらに美味しくいただけるんだと思っています。」
なるほど、このコースにもきちんとした理由があったんですね。
特産松阪牛炭火焼

特産松阪牛のステーキ。渡部敏毅シェフによれば、年間で約200本しか出荷されない松阪牛の中でも、上位3%しか「特産」というカテゴリーはなく、極めて希少な牛肉だそうです。
ラーメン屋の夢みたいなラーメンを作りたい

と、特産松阪牛に舌鼓を打っているうちに、渡部宏美シェフがラーメンの準備を。実は渡部宏美シェフは、ご実家が製麺所を営まれており、ご自身のラーメン店もミシュランのビブグルマンに選ばれるまで育て上げた超一流のラーメン職人。それがなぜ…
「ラーメン屋さんやってると一杯でお腹いっぱいにしなきゃいけないし、10円上げただけでお客さん減るし、やりたいことが結構やれないビジネススタイルだなと思ったんですよ。その時近くで彼がレストランをやってまして、そこで私が使っていた地鶏をさらに特別肥育した青森産のシャモロック・ザ・ザプレミアム#6という鶏を使っていたんですよ。
そんな風に食材をいろいろ知っていく中で、もっとラーメン屋の夢みたいなラーメンを作っていきたいなと思って今の形になりました。」
理想のラーメンを作りたいから、敢えてラーメン屋を辞める…
ご夫婦そろって、まさに食材の求道者です。
松茸ワンタンらーめん

そして松茸ワンタンらーめんの登場。麺がとても美味しくシンプルながら濃厚な松茸の味と香りとのバランスが素晴らしい。
「ラーメン屋さんだと、麺もちょっと伸びにくいとか、扱いやすいとか、のどごしがいいとか結構求められる独特のポイントがあって、全体に香りがあって味わいがしっかりして美味しくてっていうのを目指すとちょっと違ってしまうんですよね。
だから本当に味と香りだけを追求して、いろいろ探して、6年ぐらいかけてこのスタイルになったんですけど。おそばっぽいような…松茸のパワーが結構強いので、そこはシンプルに作りにするのがいいんじゃないかなと思って。」
あえて「ラーメン屋さん」という枠を取り払わないと、理想のラーメンを目指すのは難しい…
なかなか考えさせられるお話でした。
シメは4種類の中から
このラーメンがシメかと思いきや、この後にさらにシメがあります。それも4種類から選べる、いや、まだお腹が空いていれば、4種類とも選べます。
新いくら丼

いくら山盛りの新いくら丼。軽く味噌の香りをつけたこの新イクラ丼、新筋子からいくらにほぐす時も渡部敏毅シェフなりの温度管理に対するこだわりがあるようです。
特産松阪牛ボロネーゼ

こちらは、特産松阪牛とコンソメを使ったボロネーゼ

と、もう一つのシメのメニュー「特産松阪牛丼」に使う卵を渡部宏美シェフがご披露。
この卵、アクアファーム秩父の「彩美卵 寿」。この卵、普通に買うと一個1000円以上という最高級卵。卵についても渡部敏毅シェフが、さまざまなブランド卵を試食して、最終的にこの卵に行き着いたとのこと。
ありとあらゆる食材へのこだわりがすごい…
特産松阪牛丼

そして登場するのが、特産松阪牛丼(寿卵)。松茸も加えてあります。当然ながら原価で言えば、たぶん日本一高い牛丼でしょう。
特産松阪牛カレー

そしてこちらも特産松阪牛を使ったカレー。もうお腹がかなりいっぱいだったのですが、どれも美味しそうで少しづつ全部いただいてしまったのは言うまでもありません。
料理には「気」が乗る 120%を出すために98%の精度を

「Repro使いを尋ねて」のコラム記事なのに、あまりの衝撃に、ここまでReproの話をほとんどせずに来てしまいました。(苦笑)
もちろん渡部宏美シェフのラーメンのスープを始め、色々な料理にReproをお使いいただいています。でもここで渡部敏毅シェフの印象深い言葉を。
「スピリチュアル的な話になってしまうんですが、私は料理には『気が乗る』と思うんですね。何か温かい想いみたいなものがあって、それが料理を120点に引き上げてくれる。それはピタッとした温度管理の先にあるんですが、でもそこに行き着くためには98点を取れる温度精度が必要なんです。」
まさに!
F-1で言えば、私たちはReproという最高性能・最高精度のレーシングカーを提供しているメーカーです。でもフェラーリやメルセデスやマクラーレンといった最高のレーシングカーに乗れば、誰でもチャンピオンになれるわけではありません。
その最高性能のクルマをミハエル・シューマッハやアイルトン・セナがドライブするから(ちょっと時代が古いですね…)チェッカーフラグを受けられるわけです。
Repro開発チームは、料理をする人が「神の領域」へ達することを手助けする最高のレーシングカーを作るんだという想いで、日夜頑張っているわけです。
次はReproをドロップインに

ただ美味しい料理をいただいた、というだけではないというアリバイ工作?に、最後に渡部敏毅シェフの言葉を。
「うちは来年(つまり今年)の6月ぐらいを目安に移転しようかなと移転計画を立ててまして、その時にはReproをキッチンの中に組み込もうと思っているんですよ。」
Reproがきれいにドロップインされたキッチン、是非とも拝見してみたいです。そしてそんな計画を考えていただけるほどには、どうもReproを気に入ってもらえているようです。