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思ったように包丁が研げない
料理を作る以上、たまには包丁を研ぎます。Repro開発チームのスタッフには某有名店に10年以上もいたベテラン和食料理人もいるので、親方から一通りの研ぎ方は勉強させていただきました。
でもなんだか、たまに失敗したり、思ったような切れ味にならなかったり…
まあ、本職の職人さんですら長い間使っている包丁は、なんだか変な形になっていたりすることもありますもんね。これって長い間の研ぎ方の偏りが蓄積していった結果なんでしょう。
でも最先端の調理デバイスReproの開発スタッフが包丁の研ぎ方が下手っていうのもなんだか興ざめでなので。
きっかけは包丁料理人おいりさん

この記事を書くきっかけになったのは、とある知り合いの料理店で包丁料理人おいりさんと出会ったから。
おいりさん、包丁研ぎ師にして、

飾り切り職人。そして、
いまやチャンネル登録者数10万人を超える人気ユーチューバー。
チャンネルの紹介文には、
包丁を愛しています
人生に切る喜びを
とのキャッチフレーズが。28歳にして、101本の包丁を所有している異才というか、ある種の鬼才。そこには包丁と食に対する強烈な愛情が感じられます。

おいりさんと知り合った料理店の若い職人さんが、おいりさんに研いでもらったばかりのご自慢の包丁を使いながら、
「おいりさんに研いでもらった包丁、怖いくらい切れるんですよ。」
と。

そりゃ、そうでしょう。これがおいりさんの研いだ包丁で切るトマトの薄切り。恐ろしい切れ味です。おいりさんのチャンネルに動画もあります。
そして初対面のおいりさんからも、
「いつでもご依頼いただければ、包丁研ぎますよ。」
と気さくにおっしゃっていただきました。その時は「そのうち機会があったら試しにお願いしてみようかな」ぐらいに思っていたのですが…
切っ先やっちまいました…
「そのうち…」は、あっという間にやってきました。

普段、家の料理で使っているのは吉田金属工業さんのGLOBAL-IST万能包丁(19cm)。オールステンレスで清潔だし、牛刀と三徳包丁の中間のような形で便利です。そして切れ味もなかなか。重宝していました。

しかし、スルッと手が滑りステンレスのシンクに切っ先から…
写真左側のように切っ先が欠けてしまいました。ちなみにこの包丁、元々は両刃の洋包丁なのですが、写真右側のように(分かりにくいのですが)表側:裏側=9:1(いやもう10:0かな…)のほぼ「片刃状態」に研がれていました。
そうなった理由は至ってシンプル。自分が片刃の包丁に慣れているのと、両刃の包丁を研ぐのが苦手だからです。片刃ならほぼ「ベタづけ状態」で研いでいれば、研ぐ時の角度にあまり神経質にならなくて良いから。(ちなみにこれ、本当は間違った認識ですが)
いずれにせよ、こうなってしまうと自分のスキルでは手に負えないなあ、と。
研ぎ直しは秒殺でした
おいりさんに連絡して、状況を説明すると二つ返事で、研ぎ直し作業を受けいただけました。いちおう納期は約1週間とのこと。早速包丁を郵送したところ、翌日午後3時には到着したとの連絡が。そしてなんとその日の夜遅くにはほぼ完成との知らせ。仕事はやっ!

「一応 時間にして約3時間ほどです。おそらく感じたことのない切れ味を実感していただけるかと思います。ぜひ最初はトマトを…」
わずか3時間で切っ先をきれいに出せるんだ。すごいなあ…
そして翌日には包丁が戻ってきました。動画で撮ったのでごらんください。
一応弁解させていただくと、一人で撮影したのですが、カメラ越しにファインダーを見ながら、手だけ伸ばして包丁で切るのって結構に難しくって… ちょっと斜めに切れていたり、切る場所を迷っているのはご愛嬌ってことで。
おいりさんのように包丁がうまくないので、どこまで切れ味が伝わっているか難しいところですが、実際はかなりスッと包丁がトマトに入っていく感じです。
そしてさらにおいりさんが親切なのは、パキッと10:0の片刃に研いでいただいた、このGLOBAL-ISTの万能包丁(19cm)の研ぎ方指南動画も送ってくれたこと。
こういうアフターケアーをしていただけると、俄然やる気が出ます。せっかく達人に研ぎ直ししてもらっても、自分が研いだらまた元に戻ってしまうのではないか?というのが素人の最大の不安ですから。
おいりさんは筋道立てて研ぎ方を説明してくれるから
と、まあこんな事があって以来、おいりさんにYouTubeで弟子入り?しました。
と言っても、おいりさんのチャンネルには400本以上の動画があります。全部見て免許皆伝になるのはかなりキツイので、初心者の方はまずこの動画がおすすめです。
これでそこそこ自信がつきます。何しろおいりさんの良いところは、筋道立てて研ぎ方を説明してくれること。なぜそうしなければいけないのか?を教わってから、その上で実際のやり方を見ると腑に落ちるというか、よく理解できます。やっぱり「作業のやり方」だけじゃなくて「構造」から教わることは何にでも大切ですね。
【発見1】思った通りに研げなかった理由が分かった
「YouTube弟子入り」したおかげで、これまでなぜか思ったとおりに研げなかった大きな理由が分かりました。
原因は極めてシンプル。
「面直し(「めんなおし」とか「つらなおし」とか呼びますが)」は毎回やらなければいけません。
って、そんなことも知りませんでしたよ。
包丁を研ぐと、あとに黒く研いだ跡が残りますが、それはイコールその部分がへこんでしまっているってこと。つまり砥石の表面がデコボコになっているわけです。(実は研ぎ1回だけでも結構な高低差が出来ています)
面直ししなければいけないことは知っていましたが、「たまにやればいい」ぐらいの認識でしかありませんでした。
でも、包丁を研いだ後(もしくは研ぐ前)には必ず面直しして、あの黒い部分がない状態にすることが必須だったようです。
言われてみれば、そりゃ砥石の面が正確に平らじゃなければ、包丁も研げる部分と研げない部分ができ、均一に刃が付かないのは当たり前ですよね。詳しくはおいりさんの動画をご参考に。
【発見2】仕上げ砥石は必ず使いましょう

紙ヤスリに荒目から細目まであるように、砥石も荒砥石・中砥石・仕上げ砥石と3種類あります。荒砥石は主に今回のように切っ先を欠いたとか、よほどの刃こぼれした時の整形用。その時はおいりさんのような方にお願いした方が早いので、元々持っていません。
持っているのは仕上げ砥石と中砥石だけでしたが、実は普段 中砥石しか使っていませんでした。料理した後に中砥石でちょっと包丁を撫でてやれば、それなりに切れ味は戻りますし、仕上げ砥石は包丁を「鏡面仕上げ」したい人とかの、いわば「お化粧用の砥石」ぐらいに思っていたのです。
でもこれも間違いでした。
皆さんご存知のように包丁はミクロで見ると刃先に小さいノコギリのようなデコボコがあって、それが食材を切り裂いています。
切れない包丁でトマトを切ろうとすると、トマトのツルツルの皮で滑ってうまく切ることができません。しかし中砥石をかけると、微かにジャリっとした引っかかる感覚があり、そのあと包丁の刃がスッと入っていきます。正直、これが「切れる」ということだと思っていました。
しかし仕上げ砥石をかけると、この「ジャリ」がなくなり、抵抗を感じずに気持ち良いようにスッと包丁が入っていきます。これが本当の「切れる」状態でした。
仕上げ砥石は「おしゃれ用」ではなく、中砥石が作ったミクロのノコギリの刃をさらに細かくして抵抗なく切れるようにする役目だったのです。
研ぎに手慣れた方でも、時間がなかったり、中砥石をかければ一応、その日の仕事に支障はないので、仕上げ砥石をさぼってた方もいらっしゃいませんか?(自分もその一人でしたが)
しかし今となっては毎回 仕上げ砥石をかけることを強くお勧めします。どうせ大した時間はかかりませんから。よっぽど毎回きれいに面直しする方が手間がかかります。
【発見3】良い包丁を買ったらまずは達人に研いでもらう

初めておいりさんにお会いした時に、知り合いの若い料理人から「新しく包丁を買ったら、まずおいりさんに預けた方が良い」と言われました。
どうも包丁はメーカーから出荷される時には、そんなに気合い入れてキレッキレに研いではないんですね。刃が欠けたり不測の事態もありますし、個々人の好みもありますし。
つまり本来の切れ味の6〜7割ぐらいの状態で出荷されるわけです。そうすると、特に私のような素人は、その状態をベースに、つまりその時の角度を基本に研いでいくわけです。
一方、達人に預けて最初にきれいな刃を付けてもらうと、今度はその角度を基準にずっと研いでいきます。(技術的にその状態を正確に維持できないという側面こそあるものの)
つまり、新しく買った包丁の運命 ー その包丁が将来「名刀」に成長するか?、「なまくら」になるか? ー は最初の段階で決まってしまうかもしれないわけです。
実はGLOBAL-IST万能包丁(19cm)は個人用とRepro開発チームとしてデモ用に買った2本を持っていました。会社用の1本は、ほぼ新品状態で刃も両刃のままです。なのでこれもおいりさんに研ぎをお願いしました。
そして結果、「指紋すら剥ぎ取れる」ような切れ味になって帰ってきました。
というわけで、そこそこ良い包丁をお買いになったら、使う前に達人に研ぎをお願いすることをお勧めします。
【発見4】研ぎ直ししてもらうと格段に研ぎやすくなる

そして最後に、これはなぜだか分からないのですが、一度研ぎ直ししてもらうと、今までより明らかに研ぎやすくなるんです。
「自分で研いだら、せっかくおいりさんの達人技で実現した切れ味がなまるのでは?」
と心配していました。しかしこれまで何回か自分で研いでみましたが、ちゃんと研ぎ直し直後の切れ味に戻るんですよね。ずっと繰り返していれば、いつかはまた「なまくら」になるのかもしれませんが。今のところ当分は大丈夫そうです。
カラオケの「ガイドボーカル入り」みたいな仕組みですかね。
おいりさんが付けた刃がガイドになってうまく研げているのかも。
本当の理由は今も分かっていませんが…
ただ言えることは、これまでより包丁研ぎの作業が格段に楽しくなってきた、ということ。家にある他のペティナイフとか出刃とか、色々な包丁研ぎにチャレンジしたくなってきた今日このごろです。
ぜひ皆さんにも包丁研ぎの楽しさを味わっていただければ。
ちなみに包丁料理人おいりさんの研ぎ直しオーダーはこちらから。
