Reproレシピ「かぶのソテー」

 前回は、「かぼちゃの含め煮」のレシピを例に、
野菜には、ぎりぎり柔らかくなる温度=最低軟化温度?があり、それは野菜によって異なる
というお話をさせていただきました。
今回は、「かぶのソテー」を例に、
それぞれの野菜によって、固くなってしまう=ペクチン硬化する温度がある
というお話しをします。

料理家 樋口直哉さんの記事「じゃがいもの〈梨もどき〉という料理」より

ペクチン硬化とは

多くの野菜は50〜80℃、特に60〜70℃に加熱すると、酵素の働きなどで細胞壁を構成しているペクチン質が変性して硬くなります。これを「ペクチン質が硬化した」と呼んでいるわけですが、一番分かりやすいのは「じゃがいもの梨もどき」という不思議なレシピです。ちなみにこの写真は料理家 樋口直哉さんのnote記事「じゃがいもの〈梨もどき〉という料理」から無断で転載したものです。
(すいません)
このレシピ、千六本(マッチ棒)に切ったじゃがいもを50〜80℃に加熱して、三杯酢でいただくというものですが、じゃがいもがシャリシャリして、梨のような食感になります。
詳しい作り方は樋口さんの記事をご覧ください。

レトルトカレーの煮崩れていない不思議なサイコロ状のじゃがいも

工場では昔から利用していた

ペクチン硬化は、野菜まるごと硬化させてしまうと「梨もどき」ぐらいしか利用方法がありませんが、表面だけを硬化させると「煮崩れ防止効果」が望め、汎用性が一気に広がります。
だから食品工場などでは昔からペクチン硬化を利用していました。これを「低温ブランチング」と呼んだりしますが。
例えば、ほとんど煮崩れしていないレトルトカレーのサイコロ状のじゃがいもとか、煮た野菜が入った缶詰やレトルト食品とか、これらは煮崩れ防止のために表面を「ペクチン硬化=低温ブランチング」させています。

この男爵いもは「ゴリいも」ではありません

ペクチン硬化の原因は野菜の変死?

 ところでなぜ、ペクチン硬化という現象が起きるのか?
化学的に説明すると「ペクチンエステラーゼという酵素が活性化し…」と、小難しいお話になってしまうのですが、「文系」的に分かりやすく言うと、
ペクチン硬化は野菜の生体防御反応です
ということになります。つまり、
①野菜の細胞が死ぬ→
②細菌などの微生物が侵入する→
③腐敗が始まる
という流れを阻止すべく、微生物が侵入できないよう細胞壁付近の組織強度を高める反応が「ペクチン硬化」です。
だから、実は60〜70℃に加熱するだけでなく、色んなパターンで植物が「変死する」とペクチン硬化が起きます。
例えば、「ゴリいも」と言われる現象。いもの畑が水害で浸水してしまうと、いもが窒息死します。こうなるといくら加熱しても硬いいもが出来てしまい、これを農家の方などは「ゴリいも」と呼んでいます。
さらに、大根の「乾燥死」である「切り干し大根」。水に戻すとしっとりはしますが、生の大根のようには柔らかくならないですよね。

「野菜の硬化とその機構」香西みどり(日本調理科学会 2002年)より

さらに、お茶の水女子大学 香西みどり先生の論文「野菜の硬化とその機構」(日本調理科学会 2002年)には、
硬化が細胞死に伴う二次的現象であると考えて冷凍死(-10℃,24h)、加熱死(70℃,1h)、麻酔剤および細胞毒死(トリオールおよび昇こう水浸漬)などさまざまな手段を試み、いずれの場合も硬化が起こることを認めている。
とあります。(野菜をどう殺しても硬化が起きるか?を殺害方法を色々変えて実験しようと思った人はかなりエッジが立っていますが…)

つまりは、動物における「死後硬直」のように、窒息死、乾燥死、冷凍死、加熱死、毒死などなど、あらゆる方法で野菜が変死した時に、そのカラダが固くなる現象が「ペクチン硬化」なのです。

さきほど引用した料理家 樋口直哉さんの「じゃがいもの〈梨もどき〉という料理」で、樋口さんが「この梨もどきというのはものの本によれば昭和30年代頃からある料理とのことですが、だれが発明したかなどは謎。誰か詳しい方がいたら教えて下さい。」と書いています。
浅学非才のRepro開発チームが、「梨もどき」の歴史を知る由もありませんが、こんな風に勝手に想像しています。

元々、畑が冠水して出来てしまった「ゴリいも」を、なんとか食べる方法はないかと模索した農家の方が、無理くり編み出した料理が、かつてあったのではないかと。
それが、のちに「普通のいもも、さっと茹でると『ゴリいも』のようになる」ことに気付き、ゴリいもの食べ方を適用させたのが「梨もどき」なのかなあ、と…
そうでも考えないと、「梨もどき」はかなり不自然なテクスチャ、もとえ斬新過ぎる食感なので。

「かぶのソテー」は牛ステーキと組み合わせる場合も

さて、また前置きが長くなってしまいましたが、「かぶのソテー」です。
これまでは工場だけで使われていた「表面だけペクチン硬化」ですが、Reproがあれば、家庭でも簡単にできます。Repro開発チームが作ったレシピは、下準備作業である「かぶのペクチン硬化」(レシピNo.00000026)と、最終工程である「かぶのソテー」(レシピNo.000000313)の2部構成になっています。
かぶは、煮ても焼いても美味しい野菜ですが、煮れば「煮崩れ」、焼いても「焼き崩れ」が起きやすいところがやっかいです。
そこで、まずかぶの表面だけをペクチン硬化させて、「焼き崩れしない薄い壁」を作ってからソテーしようというのが、このレシピです。

「かぶのペクチン硬化」のマルチステップ

まず「かぶのペクチン硬化」のマルチステップを見ていきましょう。
かぶがペクチン硬化しやすい温度は約60℃です。このレシピでは、最初のステップで、鍋の水を60℃に温めています。(温度ターゲットは水温、センサー種別は外部センサーを使い、スキップボタンを押すまで60℃をキープします)
そして、かぶを鍋に入れたらスキップボタンを押し、ステップ02に移行します。ステップ02は、そのまま同じ60℃で13分間加熱します。
つまり、かぶの場合は60℃で13分間煮ると、表面の1〜2mmぐらいがペクチン硬化して「焼き崩れしない薄い壁」を形成してくれるというわけです。(もちろん13分経ったら、すぐに冷水で熱を取らないと壁が厚くなってしまうのでご注意を)

「かぶのソテー」のマルチステップ

こちらは「かぶのソテー」のマルチステップです。
ステップ01は、フライパンを140℃に温めて、ソテーする準備工程です。
(温度ターゲットは表面温度、そして温度ターゲットが表面温度=炒め物の場合、センサー種別は自動的に本体センサーが選択されます。)
ちなみに「140℃」は通常のガスコンロで言えば「弱火相当」といったところです。
ステップ02は、140℃で15分間、かぶの片面を炒める工程、ステップ03は反対の面を同じく140℃で15分間炒める工程です。
ステップ04の待機ステップの間に、フライパンからかぶを取り出し、代わりにドライトマトを入れてスキップボタンを押すと、ステップ05に移行して、同じく140℃でドライトマトを炒めます。

【かぶのソテーの材料】
〜かぶのペクチン硬化〜
小かぶ              5個
煮る用の水            2L
〜かぶのソテー〜
発酵バター(無塩)       10g(1回で焼く分)
セミドライトマト     5切れ(1回で焼く分)
シュレッドチーズ     適量
カッテージチーズ     適量
塩            適量

かぶのソテーの材料はごらんのとおりです。さっそく作っていきましょう。

かぶの茎を2cmぐらい残してカットします。

茎を残すように皮を剥きます。

ソテー用に上面を薄くスライスして、縦半分にカットします。

茎の間に入ったゴミを、竹串できれいに掃除しましょう。

Reproに鍋を置いて水2.0Lを入れます。外部センサーをセットしたらスタートボタンを押してください。

60℃になってアラームが鳴ったら、かぶを入れてスキップボタンを押します。

60℃で13分間加熱します。かぶが浮いているのが気になる場合は、落としぶたをしてください。

アラームが鳴ったら鍋をReproから外して、氷水でかぶを冷ましてください。すぐに冷やさないとペクチン硬化が進んでしまいます。

これで下ごしらえの「かぶのペクチン硬化」は終了。ここからは「かぶのソテー」のレシピになります。

「かぶのソテー」のレシピをRepro本体に送信し、レシピを表示させてからスタートボタンを押せば、140℃に加熱を開始します。140℃に到達してピッとアラームが鳴ったら、バターを落として、溶かします。

バターが溶けたら、かぶを置いて軽く塩を振り、スキップボタンを押してください。

ふたをしてください。140℃で15分加熱します。

15分経ちピッとアラームが鳴ったら、かぶを裏返して、反対の面にも軽く塩を振ってください。またふたをして15分間裏面を加熱します。

15分経過してピッと鳴ったら、Reproは待機ステップに入っています。
竹串を刺してかぶの固さを確認してください。まだ固い時はアップダウンボタンを押して追加加熱を設定してください。OKの時はかぶを取り出してスキップボタンを押してください。

140℃に加熱しますので、セミドライトマトに軽く焼き色がつくまで両面を炒めてください。セミドライトマトを焼き終えたら、スキップボタン、もしくはストップボタンを押してReproでの工程を終了してください。

炒めたかぶにセミドライトマトとシュレッドチーズを乗せて、オーブン(250℃)でチーズが溶けるまで約2分間 加熱します。

シュレッドチーズが溶けたらオーブンから取り出し、トッピングにカッテージチーズをのせて完成です。
自分で言うのもなんですが、「ペクチン硬化」テクを一般家庭のキッチンで自由自在に使いこなせるのは、正直言って画期的です。
かぶは特にペクチン硬化が分かりやすく発現する野菜ですが、他の野菜でも色々試してみてください。
さっき「ペクチン硬化は食品工場では昔から…」と言いましたが、もっと身近にもペクチン硬化を利用している例があるのかもしれません。

 例えば、おでん屋さんのじゃがいもが煮崩れしていなかったりするのも、あの巨大な「おでんを煮る機械」がゆっくりしか温度が上がらず、結果として50〜80℃帯をゆっくり通過し、軽くペクチン硬化を起こしているせいかもしれません。
一方、おでんの大根がゴリゴリしていないのは、「おでんマシーン」とは別の鍋で一気に沸点近くまで温度を上げて下茹でされているせい…

まずは身の回りの「不自然に煮崩れしていない食品・料理」を見つけたら、ペクチン硬化させていないかをチェックして、おうちのReproで再現してみるのも一興かと。

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